385 : sideH ページ17
.
「それでも、この楽曲の表現のためだけにそれをやってのけた。優秀な聴力、繊細な表現技法が、それを可能にすることを 君は自覚しているね？」
興奮でおかしな事を口走らないよう、ゆっくりと語りかける俺に ミヅキは首を縦に振った。
この数ヶ月で、彼女は確実に 自分のスキルに対して自信をつけている。それが垣間見えるような頷き。
ただこれは自信がある故の挑戦、という単純な話ではないように思う。彼女は2次審査の頃から、歌や表現力に匹敵する強い才能を俺に見せつけていた。
「…………君の度胸には、心から感服します」
「、ふふっ」
初めての歌唱審査で、とてつもなく難易度の高い歌をぶつけてきた時に、只者じゃないと感じさせた。
世界が変わるような深いブレス……あの瞬間から、俺はミヅキに心を囚われたまま。
「閉ざされた視界の中で、全ての感覚が研ぎ澄まされているのを見て取れました。頭の先から、指先。貴女の口からでる歌声の全てに 何かが宿っている」
それは、心臓を掴まれるような恐ろしさ。気がつけば息をするのを忘れている。
何度、彼女に対してこの気持ちを抱けば満足するのだろう。恐ろしいけれども、純粋な恐怖とも違う。
「 まるで神や悪魔の類が憑依したかのような、
………凄まじい表現力です 」
敬服する。
1人の音楽人として、彼女が持つ才能の全てが羨ましく、人らならざるものを宿すと錯覚させるまで 努力を続けてきた根性を心から尊敬した。
今はまだ若く不安定な力。
それでもここぞとばかりに見せつけるものは、この先何十年という音楽シーンを 強く照らしつけるだろう。
(だからこそ、この才能の行方に迷ってしまう)
彼女が女性というだけで、それら全てが無視されてしまうような環境がある。
ミヅキ以外が男ばかりのグループで、果たして彼女は、僕は、………彼らは。その才能を活かしきることが出来るのだろうか。
(変わってしまったんだな……)
このオーディションを始めた頃は、ボーイズグループに女性が必要かどうか。で悩んでいた。
しかし、ミヅキが一歩一歩確かな足音で存在を示す度、俺はいつの間にか……“彼女にとってボーイズグループが必要かどうか” を迷うようになってしまった。
この唯一無二の才能を、俺の手で壊してしまったらどうしようと恐れている。
彼女の目の前に続くのは茨の道。
それを俺自信の口で、あの日に彼女に伝えたはずだ。
(いや、俺は何も分かっていなかった……)
そう、肝心な事は何も。
この迷いに答えを出すことが、ここまで怖いものになるなんて。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 235人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
たなかかなかな - 後日談も楽しく読ませていただいてます。マジックアワーは2度3度と読み直してます。楽しすぎて。これからも応援しています！ (2022年9月27日 20時) (
レス) @page36 id: 027385bbb4 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - たなかかなかなさん» 感想いただきありがとうございます。ご満足いただけたようでよかったです。後日談も別に用意してますので、もしよろしければお時間あるときに是非☺️ (2022年9月25日 22時) (レス) id: 773791160b (このIDを非表示/違反報告)
たなかかなかな - シンプルに最高でした。終わりが近づくと、終わってしまう…涙と思っていました。本当に楽しく読ませて頂きました。ありがとうございました。 (2022年9月25日 20時) (レス) @page36 id: 612fbd8b28 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - okp8119さん» こんにちは！ここまで読んでくださりありがとうございます🥺ちょうどコメントくださったくらいのタイミングで続編公開させてもらっていますね！笑 すごいタイミングだ…笑 ぜひ続編の方もお付き合いいただければと思います☺️ (2022年8月27日 10時) (レス) id: 3ec38cc9a0 (このIDを非表示/違反報告)
okp8119(プロフ) - 終わってしまうのが寂しくて最終話更新されてからやっと読ませていただきました！泣けるところはぼろぼろないていつも読ませていただいていました！この後の展開もものすごくきになります番外編とかあったらいいのにな… (2022年8月25日 1時) (レス) @page36 id: 41ee639f84 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白 | 作成日時：2022年8月6日 23時
