マジックアワー2【THE FIRST】

▼ ページ49

.




その高い音楽性を見せつけるようなコーラス、そして技術も個性も申し分ないリードが織りなす 圧倒的な表現力を見たとき、(ああ絶対にこの子は合宿に連れて行く)と心の中で決心した。
慶太の言葉を借りると、これこそ“勝ち確演出”だ。

彼女の魅力を測るときに、歌の成分が強すぎるが故に ダンスについても同等のレベルを求めてしまうからか、どうしてもダンスを褒める言葉を出すことは出来ない。

しかしそれにしたって、女の子とは思えないような力強さ、正確な音取り。teamBに入れたことを少しも後悔しないようなスキルは充分にある。




「天才と呼ばせて欲しいです」




本来有り余る才能を語るはずのその単語が、Aの前では凄く陳腐なものに聞こえる。それでも彼女は“天才”以外の何者でもない。

きっと生まれながらのものだけではないだろう。
履歴書に書かれた思いの中に、彼女が孤独の中で積み重ねた努力は見え隠れしている。独学でここまでスキルを上げることが、どれほど苦しいことだったか…

どんな環境でどんな事情を持っていたとしても、ここまで来てくれて本当に良かったと思わずにはいられない。



受け取ったTシャツに顔を埋めたA。
自分がもらった言葉を噛み締めるようにする姿は、17歳の、年相応のそれだった。




＊




「Aはバスで帰るの？」

「あ、はい」




合宿参加組が荷物をまとめるなか、高速バスの乗り場を確認するAに近寄って声をかける。
他の地方組が新幹線で帰るというのに、わざわざバスで帰るのは…彼女の家庭環境が関係しているのか。頭に浮かんだ憶測はあまり考えないようにして、「気を付けて帰るんだよ」と言ったら、Aは「はい」と頷いた。




「あの、日高さん」

「ん？」

「合宿までにどんな事をしたらいいでしょうか」




控えめに聞いてきたAに、僕はどんな言葉を返そうか迷ってしまう。正直今のまま、これまでの努力を実直に続けてくれれば…あとは合宿で思いっきり良い環境でレッスンを受けさせてあげれば、爆発的な成長を見せてくれる気がしている。



.

▼→←▼

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す