マジックアワー2【THE FIRST】

番外編 - 君に決めた - ページ46

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これから巻き起こる誰も予想つかない物語の始まり。
それを予期させるような深いブレスから始まった歌に、僕の脳裏に浮かんだ “レッスン歴なし” の文字。

笑わせてくれる。
世の中には本当に、怪物みたいな子がいるもんだ。











side SKY-HI











画面越しに歌う彼女の映像を見て、僕は心底 その場に気軽に行けない今のご時世を恨んだ。

それほどまでに衝撃を受けたパフォーマンス。原曲に比べて導入部分をラップ要素強めにアレンジした歌い出し、さらにそこから転調に合わせて声質がガラリと変わる。フック前に女性らしい滑らかなラインを繰り出して来たと思ったら、胸を突き刺すようなハイトーンを見せた。

その鮮やかなまでの楽曲表現には、息をするのも忘れてしまうほどで。終わったあと心臓が痛いほど鼓動していたのと、じんわり手に汗を握っていたのを覚えている。




「僕は君を待っていました」




思わず出た言葉に、自分自身が驚いた。
遠く遠く……僕がこの世界に飛び込んだ頃から描いていたビジョンに、強烈な色を添える存在。

まさかこんな子に出会えるとは思ってもみなかった。
もしもこれが、他の事務所のオーディションだったら…いや、僕よりも前にどこかのスカウトの目に留まっていたら。数年後、苦汁を啜るような思いをしたのはこちらかも知れない。

世界で初めて、彼女を見つけたのが僕でよかった。




「怪物が来たね…」




彼女が出て行ったあと、ソファに深く腰掛けてそう呟く。全国6カ所で展開したオーディション、最後の地 大阪で。とんでもない人材を発掘した事実に大きな満足感を覚えた。

目の前にいるスタッフが「社長、また言いましたね」と苦笑いを浮かべる。ああ、そういえばまた言ったね。でもさ。




「君が審査員だったら、彼女を落とす？」




我ながら意地悪だっただろう。
ニヤリと笑いながら問いかけたら、彼は慌てて首を横に振った。そうだろそうだろ、例え僕らではなくったって、素人から見ても彼女の存在は目を惹くものがある。

歌やダンスの魅力もさる事ながら、“レッスン歴なし”をある種の肩書きとしてしまえるくらい、最初の歌唱審査であの高難易度の歌をバチッと決めた度胸が決め手だ。

何と比べて、彼女をここで落とす事が出来ようか。
100%次が決まっているのなら、その場で気持ちを示すのが、彼女の人間離れした華々しい才能に対する礼儀というものだ。



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