マジックアワー2【THE FIRST】

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その姿にどこか懐かしさを感じて、泣きたくなるほどの衝動を受けたのは、3次審査が始まる数時間前。

早朝の公園で、
壁に向かって踊る人影を見つけた時だった。






side S






(嘘だろ……)




頭ではまだ疑いの念が払えないけど、身体は正直だ。
心臓から指先に至るまでの全てが脈打っていて、そこにいるのが、数年前に自分の前から姿を消した幼馴染だと訴えかけている。




(まさか、ここでかよ)




いつか俺もAも有名になって、
世間に映るお互いの姿を見つけられたら。
俺がAを迎えにいって、
またあの日々の続きをするんだって。

そう思ってここまで来た。
まさかそんなタイミングで、会えることになるとは。




(みづも来たんだな……)




嬉しくて自然と上がる口角と、近寄りそうになる足に力を入れて、はやる気持ちをグッと押し殺す。

集中して課題曲を踊り込むAにどんな風に話しかければいいか分からず、自動販売機で温かいココアを買って慌てて戻ったら、まだAはそこにいて。
その姿が幻ではないのだと教えてくれた。







3次審査の会場に入ると、真ん中より少し後ろの隅に座ったAが目に入って、そっとその隣に足をすすめる。

いつ俺に気付くだろうと思っていたのだけど、休憩時間になってもこちらに目を向けることはなくて。でも今更自分から話しかける勇気もなく、苦し紛れの咳払い作戦も失敗に終わってしまった。

結局、むこうが俺に気付いたのは、22位で俺の名前が呼ばれた時だ。ステージ上から目をまん丸にして俺を見つめるAの視線を痛いほどに感じる。




(やっと気付いたの)




自己紹介が終わって席に戻る時にもまだ、アホみたいなまん丸目がこっちを見ていたので、つい“ばーか”と揶揄うような真似をしてしまった。



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