35話 数珠丸side ページ9
薬研さんとにっかりの前では装っているけれど、実は昨日から緊張していました←
何せ一ヶ月以上もにっかりと話したり顔を合わせてなかったのだ。
会ったところで、全く面識が無いように接されることが怖くて会いに来れなかった。
けれど今回、薬研さんの方から会ってみたらどうだと言った。
来てみれば案外、にっかりはそこまで私を遠ざけようとせず、いつものような発言をすることもなく、ただ他愛のない、本丸であった話や、にっかりの周りで最近起きたことの話をした。
…考えがよくわからない、以前のにっかりとの会話は楽しかったけれど、今のごく普通な言葉が連なる話も悪くはなかった。
葵「…数珠丸、あそこに置いてあるあれは、数珠丸のもの？」
にっかりの視線の先を見る。
そこには旅装束やら旅道具一式が、几帳面に整えられて置かれていた。
数「＿＿あれは、貴方のものですよ」
葵「僕の⁇…ああ、なるほど」
にっかりはすぐ理解したようだ。そして、それ以上何も言わなくなった。
薬研さん、愛染さんと続いて、この本丸で3番目に修行許可を主から貰った刀がにっかりだった。
修行許可も貰った日、にっかりはその名の通り、にっかりとした笑顔で嬉しそうに私に報告をした。明日の出陣から帰ってきたらすぐにでも出発すると、布団に入るまでずっと話していたのを覚えている。
＿＿けれど、あの戦から、修行許可を貰って嬉しそうにしていたにっかりは、帰って来なかった。
修行許可を貰ったまま、使い道を知らずに、何をしようとしていたか知らずに道具を隅に置きざりにしている。
…人とは、忘れやすい生き物だ。
あの日見たにっかりの顔が、道具とともに埃を被っていって、その姿をくらませる。
数「…にっかり」
葵「？」
数「もうすぐ、現世での夏祭りがありますね。…誰かと行動するか決めましたか？」
葵「まだ決めてないよ…そうだ、数珠丸と一緒にまわりたいな」
数「ええ」
楽しみだね、と
目の前にはこの頃笑う回数が減ったというにっかりの、脇差らしい無垢な笑顔があった。
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作者名：七文字いろは | 作成日時：2017年12月3日 20時
