第三十七舞『一笑さえ一刻』 ページ37
_
「蟹缶買ってきた」
アイザックが袋を片手に掲げた。
「わぁ、高いやつ?」
そこそこな、とアイザックは云った。
するとアイザックは、太宰の手錠を外した。
太宰は目をぱちくりさせ、アイザックを見た。
「自分で食えよ。食わせてやるとか、気色悪い事出来るかっつうの」
「私が逃げるかも知れないのに、手錠解くの?」
太宰の素朴な疑問は、アイザックにとっては愚問だった。
「あんた、俺を相手に振り切れると思ってんのかよ」
ただそれよりも、太宰が此処から逃げない事を知っていた。
「逆に聞くけど、逃げんなら何で先刻逃げなかった?態々部屋の前の見張りまで片付けてやったのに。
あんたなら、手錠の一つや二つ、簡単に外せるだろ」
太宰はやれやれと手を挙げ、軽く息を吐いた。
「厭だなぁ、単に蟹缶が食べたかっただけだよ?」
そう云うと、アイザックは呆れた様にした。
「早く食えよ。見付かったら面倒」
「君、ご主人様に内緒で買って来たの?」
太宰が蟹缶の蓋を開けながら聞いた。
するとアイザックは、にぃ、と笑った。
「バレない為に、如何したと思う?」
久々に見たアイザックのそう云った顔に、太宰の表情は、安堵で溢れた。
「君の事だから、窓から出たとかかな?」
「正解」
アイザックが外に出た時、空は少し明るくなって居た。
朝が来る。
本当に、この男は殺されなければ成らないのか。
情を悟られない為に、アイザックは話を続けた。
「あ、この蟹缶美味しい。流石は高価な蟹缶だ!何処で買ったの?」
太宰が目を輝かせて云うと、アイザックは思わず吹き出した。
「え、何?」
「そ、それ、元々安い上に賞味期限間近の半額のヤツ何だけど…!」
アイザックが腹を抱えて笑う一方、太宰は固まって居た。
「実に安い味だ。心做しかお腹が痛くなって来たよ」
先程と打って変わった反応をする太宰。
アイザックは可笑しくて、耐え切れず笑った。
こんな事が、前にもあった様な気がした。
それを思うと、途端にアイザックの笑顔は薄れた。
「…如何したの?」
太宰が不思議そうに聞くと、アイザックは黙って再度太宰を拘束した。
「俺には、記憶が無い。それに、何故かあの野郎には逆らえないらしい。あんたには…悪いと思ってる」
_
要注意異能力者___内務省異能特務課より
アイザック・バシェヴィス・シンガー:身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。
817人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
χCielχ(プロフ) - かれぇらいすさん» ほわ〜!!ありがとうございます!!二次創作ではどれも画像に規制がかかっており、誤字修正の際に申請通してない画像は全部消えてしまって、アッ…となりました…ヒィ...とても申し訳ないです…!あいざくんはこれからも描くので、何卒…ッ!!!! (2020年3月16日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
かれぇらいす - 久し振りに読み返してます!ところで第三十一舞のアイザ君のすんばらしいイラストはもう見れない感じですか…?私の端末だと写らない(?)のですが…(´・ω・`) (2020年3月16日 0時) (レス) id: c029fe2fa8 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - やっさんさん» わ〜!ありがとうございます!文スト自体が流血沙汰なので回避しきれない案件です! (2019年9月27日 15時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - χCielχさん» 第一章を読み切りました。アイザックさんも、厄介な過去をお持ちですね汗。根は、レイくんににていますね。細かいところは違いますが... 。少し休憩してから、続編を読んで、いきます。余談、シエルさんの、文スト、どうしても、流血沙汰に(苦笑)。 (2019年9月26日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 那佳さん» ぎえええ!?もしそうならとても嬉しいです(*´-`*) (2018年12月10日 21時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ