第十六舞『泡沫の叡智』 ページ16
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夕焼けが照らす場所。
夕焼けを遮る建物は無く、太宰に連れられ、訪れた場所は未だ明るかった。
金木犀の香りが、ふわりと鼻を
「太宰、此処は…」
一瞬だけ強い風が吹き、金木犀の花を散らす。
冷たい風に、アイザックは身を震わせた。
「君にとっても、大切な人だと思うよ」
太宰の髪が風で靡くと、太宰はこっちだよ。とアイザックを手招きする。
橙色の金木犀の花が地面に落ち、所々 橙色の
「さぁ、此処だ。名前を読んでみ給え」
アイザックは目を細め、その石に刻まれた名前を声に出す。
「おだ…さくのすけ…?」
「私の友人だよ。こうやって、
ざぁ、とまた風が吹く。
先程の風とは少し違い、優しい風だ。
「矢張り彼は生きていたよ、織田作。やんちゃな所は変わらないけどね」
太宰が切なそうに墓石に向かう。
____救ってやってくれ。
これは、これは記憶だ。
夢ではない、確かに俺の記憶だ。
アイザックは、目を見開いた。
思い出したのだ。記憶の一部分を。
自分の兄弟のように接した、五人の子供達の名前も。
幸介、
克巳、
優、
真嗣、
咲楽____、
「ッは…」
アイザックは、こんなにも大切な事を忘れていた自分に腹が立った。
「はは…!」
この感情を如何したら良い。余りにも複雑な感情で、可笑しくなる。
アイザックは、自分の金色の髪をぐしゃぐしゃに掴む。
「アイザ君…?」
アイザックの笑い声を不思議に思った太宰が、アイザックの方を向くと、
「泣いてるの?」
「俺が、あの時止めなかったから…、何時も通りに送り出した。帰って来るって、勝手に思った…」
アイザックの目から何かが溢れた。
「使うべき時に、俺の力は使えなかった。こんな俺に…誰かを救う力なんてものは、」
らしくも無く、アイザックの声が途切れ途切れに震える。
これは彼が初めて人に見せた、彼の弱さだ。
太宰は思い切り、アイザックの頬を両手で押し潰した。
「…自分を憐れむのは良くない。自分を憐れめば…君の武器である、判断力を鈍らせる事にもなる」
「…顔見んなよ、阿呆」
だって珍しいから、と太宰は微笑んだ。
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要注意異能力者___内務省異能特務課より
アイザック・バシェヴィス・シンガー:身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。
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χCielχ(プロフ) - かれぇらいすさん» ほわ〜!!ありがとうございます!!二次創作ではどれも画像に規制がかかっており、誤字修正の際に申請通してない画像は全部消えてしまって、アッ…となりました…ヒィ...とても申し訳ないです…!あいざくんはこれからも描くので、何卒…ッ!!!! (2020年3月16日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
かれぇらいす - 久し振りに読み返してます!ところで第三十一舞のアイザ君のすんばらしいイラストはもう見れない感じですか…?私の端末だと写らない(?)のですが…(´・ω・`) (2020年3月16日 0時) (レス) id: c029fe2fa8 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - やっさんさん» わ〜!ありがとうございます!文スト自体が流血沙汰なので回避しきれない案件です! (2019年9月27日 15時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - χCielχさん» 第一章を読み切りました。アイザックさんも、厄介な過去をお持ちですね汗。根は、レイくんににていますね。細かいところは違いますが... 。少し休憩してから、続編を読んで、いきます。余談、シエルさんの、文スト、どうしても、流血沙汰に(苦笑)。 (2019年9月26日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 那佳さん» ぎえええ!?もしそうならとても嬉しいです(*´-`*) (2018年12月10日 21時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
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