第二十四譚 ページ24
_
相澤に強く肩を掴まれ、痛みに少しだけ顔を歪ませた氷室。「痛てぇ」と言えば、相澤は「悪い」と謝って離してくれた。
「…まあ、別にフツーの親だったんじゃね？酷ぇことされた事も多分無い」
「…そうか」
「ああでも、周りと違うことと言えば…金持ってたのかもな。家の記憶がなんか、でけぇ家だから」
優しい親に、大富豪。中学校は名門に通う優秀な息子。絵に描いたような…理想の家族。
氷室は、親に敷かれた『理想』のレールを、ただ歩いていただけだった。こう演じれば、親が喜ぶ。周りの人が賞賛する。
愛想振り撒いていれば、大抵褒められる。アホだなあ、どいつもこいつも。内心そう思っていたのが、氷室だった。
そんな記憶を…氷室は断片的に思い出した。ああそうか、上手に笑っていれば大体なんとかなるんだ。
それを思い出した氷室は、にこりと上手に笑った。
「そんくらいかなあ、あとはなんも思い出せてない」
その笑顔は…一年前、真面目で大人しかった氷室が見せていた笑顔…そのものだった。相澤にはそれが、あまりにも場違いに感じてしまう。
最近の素の氷室は、上手く笑えない少年だったから。口元は笑っていても、目元が全く笑っていなかった。だから、そんな急に上手い笑顔を見せられても。
＿＿＿＿演技としか思えない。
なあ、俺は理想の生徒だろ？
お前らはこれを求めているんだろ？
ヒーローってこうなんだろ？
だから演じてやってるんだ、感謝して欲しいね。
相澤にはそう、読み取れてしまったんだ。
「笑うな」
「……あ？」
「…笑わなくていいよ」
他にも言う言葉があった。家の住所は分からないか？とか、親の名前とか、聞くべきことはたくさんあった。
だが…相澤の口から出たのは、その言葉で。
相澤のその一言に、氷室は表情を固めた。引き攣った笑顔をしている。自分が笑えば、みんなアホみたいに喜ぶと思っていたから。
なのに。
「まあ、ヒーローなら時に、無理矢理笑顔を作ることも、必要とされるけどね」
「……あっそ」
そう言い、氷室はぼふん、とベッドに横たわった。それはいつもの、そっけない氷室で。相澤は安堵した。
…もしも。相澤が氷室を除籍処分にした事を思い出した時は、どうするべきか。
『自己犠牲の果てに、早死にして欲しくなかったから』なんて真実は、出来れば話したくはないが…嘘もつくわけにはいかない。
相澤は今の段階から、たくさんのことを考えていた。
_
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 948人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
χCielχ(プロフ) - やっさんさん» そうです〜！！氷室編で出すかどうか今は迷っております〜ややこしくならないよう心がけます💪 (2021年11月27日 0時) (
レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 瑠李さん» ｱ!!ありがとうございます！！(*´╰╯`)楽しみに待ってくれているのだなと思えるだけでとても力になりますありがとうございます！頑張ります！！ (2021年11月27日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - へ！？逆巻さんて、あの、時間巻き戻しの逆巻さんですね(^^♪。活躍場面は、あるのでしょうか(^^)？ (2021年11月26日 22時) (レス) id: a424e1a16c (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - めっちゃ好きです˙˚ʚ₍ ᐢ. ̫ .ᐢ ₎ɞ˚読んでます。更新いつも楽しみに待っています。頑張ってください。応援してます。 (2021年11月26日 18時) (レス) id: 9824e2f221 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - あのさん» ありがとうございます〜！！男主に触れて下さり嬉しいです！コメントとても力になります…！頑張ります！！！ (2021年11月26日 1時) (レス) @page47 id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
