死ぬより先に、どうか殺して呉れ。双【文豪ストレイドッグス】

第七十舞『提撕され光芒』 ページ20

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始めに感じたのは、温かさ。






目を開けると、ぽかぽかした日差しが窓から入って青年を照らして居た。






ゆっくり身体を起こし、辺りを見回した。





激しい頭痛に襲われ、顔を顰めて 額に手を触れた。







何も覚えて居ない。






不安が取り巻き、アイザックを沈めようとする。






ふと目に入ったのは、一冊の冊(ノート)。






自分の名前が書いてあった。







「…アイザック・バシェヴィス・シンガー…絶対に見ろ？」






自分の名前と、異能力は覚えている。




冊を手に取り、不思議そうにそれを見る。





冊を開き、最初の頁から読み進めた。







「…俺の字…」






この家の中には、アイザックしか居ない。





しんとした空間で、集中して読んだ。








「…たん、ていしゃ？」






思い出そうにも、思い出す気配は無く。



この冊に書いてある事を、覚える方が早いと判断した。






「ワカメ頭…太宰。前髪、中島…」






ひとりひとり覚えようにも、中々それは難しい。




他にも色々、自分がゴロツキの事や、行き付けの店も書いてある。




織田作之助の墓参りに行く、と書かれたものを見ると…胸が締め付けられた。






目を通していると、頁の間から はらりと何かが落ちた。






アイザックがそれに気付き、一枚の紙を拾う。









『目が覚めたら、此処においで』





綺麗な字でそう書かれ、少し雑に手書きで地図が描かれていた。







「…あんたは、誰だよ」







そう云いながらも、勢い良く布団から出る。





乱暴に着替えのシャツに腕を通し、黒い上着を羽織る。






鏡を見て、何か足りないと思うと、黒い領帯(ネクタイ)を着け、指の見える手袋をした。





もう一度鏡を見て、苦しい領帯を下げ、少しだらし無い感じに着こなす。





さっと髪の毛を整え、満足気に微笑んだ。









「…よし」








きらりと、耳元の赤いピアスが輝く。








玄関に行くと、靴が何足かあるが…寸法的にも自分の感性的にも、この靴だろうと迷わず履いた。






扉を出て、鍵を閉めた。






晴天。真っ青な空。





少し北風が吹いている。






冊と地図を持って、ちらちら地図を見ながら歩いた。







アイザックは歩幅を広め、早足で横浜の街を進む。









「すっげぇ…高いビル」








高層ビルさえも初めて見る感覚だった。






太陽の眩しさに、目を細めた。








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要注意異能力者＿＿＿＿内務省異能特務課より。

アイザック・バシェヴィス・シンガー：身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。

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