死ぬより先に、どうか殺して呉れ。双【文豪ストレイドッグス】

第八十六舞『侵蝕セヨ獰猛』 ページ36

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千メートル先の脅威。




これだけ離れて居ても判るその大きさ。存在感。





ふと、鰐型の機械の口が開いた。




太宰の云って居た、高出力のエネルギーの発射が、あの部分から出るのだと確信する。




発射される光線も、大型の機械も異能ではない。




機械の内部に、巨体を動かす原動力となる異能力が組み込まれている。



しかし今は間に合わない。光線が横浜に直撃するのを防ぐ他無い。





ずるりと、芥川の羅生門が生き物の様にアイザックの腕、首元、頬までもを侵略した。






「何だ…あんたの異能、やけに俺に懐くじゃん」





自身の身を侵略する羅生門を、アイザックは懐いていると
肯定的に捉えた。





「懐いて居無い。貴様を喰い殺そうとして居る」





「あぁそうかよ…なら、早く済ませたい」






アイザックは、鰐型の機械に向かって手を掲げた。そうして、ゆっくりと深く深呼吸をする。




アイザックに憑依した黒い外套から、羅生門の黒獣が現れる。







「…やり方、教えてくれんだな」





青年は微笑み、黒い獣と会話をしたかの様だった。







「さっさと防壁を張れ、愚者め」





「煩い！判ってるっつぅの！」





外套を着ていない芥川を横目で睨み付け、全集中を掲げた掌に込めた。




すると、大量に出血した血液を代償に…巨大な真紅の氷の防壁が展開された。




羅生門の空間断絶と、真紅の氷の万物を凍らせる防壁を掛け合わせた、云わば貫通不可能の盾である。






「…芥川、だったか」





もう直ぐ、高出力エネルギーが此方に向かって放出されるだろう。



アイザックは目を閉じ、再び開けた時には…まるで別人の様に成っていた。






「何だ」






「不浄呼びはやめろ。もしこれが成功したら…俺の事は名前で
呼びやがれ」





内心、焦った気持ちで沢山だ。



自分自身がこの規模の真紅の氷を出せるのも、本当にこれで防げるのかも、定かでは無いからだ。






「…善いだろう」






芥川のたった一言に、アイザックの口角は上がる。



それだけで成功の糧となるならば、芥川も進んで許可をしただけに過ぎない事は、判って居る。




アイザックは、両手で壁を押す様に防壁を構えた。







「云ったな。あんなガラクタなんかに負けるかよ、莫ァー迦」






瞬間、物凄い騒音で…光線が放たれた。






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要注意異能力者＿＿＿＿内務省異能特務課より。

アイザック・バシェヴィス・シンガー：身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。

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