平行世界3 ページ20
.
じゃあ行ってくるね
そういって佐久間くんはまた夕焼けの中を神堂に向かって歩いていった。
俺はその後ろ姿を見届け、貸してもらった短刀を腰に下げて家を出る。
もう一度見つかるかは分からないあの湖を目指して。
ab「目黒」
mm「阿部ちゃん!」
少し迷いつつも水の音を頼りに近づくと、綺麗な湖面とふわふわの茶髪が見えて思わず走り出す。
俺の足音に気づいた阿部ちゃんは、キラキラの笑顔で振り返って手を振ってくれた。
ab「来てくれたんだね」
mm「見つけられるか不安だった」
ab「目黒は見つけられるよ。だってなんだか、特別な香りがするから」
ここに座って、と昨日と同じように阿部ちゃんは流木に俺を座らせた。
mm「どうして阿部ちゃんは人間に会いたかったの?」
ab「1000年前に会った人をさがしてるんだ」
mm「人間は100年も生きられないから・・・」
ab「うん、知ってる。もう会えないんだろうなって分かってはいるんだけど、忘れられないんだ。迎えにいくからって、そう言ってくれたから」
まるで恋をしているような美しい横顔で
阿部ちゃんは寂しそうに笑った。
ab「俺ね、人間になりたいんだ」
mm「人間に?」
ab「そう。人間は儚くて美しい。蛇の持つ長く生きる命を捨てることになっても、俺は人間になりたかった」
切実なその言葉に、阿部ちゃんが消えてしまいそうな気がして思わず膝の上で握り締められた手を包み込む。
蛇だからか、ひんやりと冷たい肌。
ab「目黒の手はあったかいね」
mm「俺が阿部ちゃんにしてあげられることはないのかな」
ab「こうやって会いに来てくれるだけでいい。ずっと探してたんだよ、1000年も」
1000年。
その長い長い時間は人間である俺には計り知れない。
ab「人間の世界の話が聞きたいな」
mm「えー、どんな話がいいかな」
ab「じゃあ目黒のことを教えて?」
何を話そうか迷っていると、こちらを興味津々に見つめている阿部ちゃんと目が合う。
その瞬間俺はまた魅了されたような気持ちになり、気づいたら言葉が口から溢れていた。
mm「おれ、この世界の人間じゃないんだ。自分の世界では大学生で。
高校生のときにさ、もう自分の人生なんてどうでもいいなってヤケになってたんだけど。
そのとき知り合った人が俺のことを救ってくれた。
その人のおかげで俺は今生きていると思う」
俺の拙い話を、阿部ちゃんはうんうんと頷きながら真剣に聞いていた。
.
756人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
勾玉(プロフ) - ミトコンドリア君さん» またまたコメントありがとうございます( ; ; )励みになります!いわだてをちゃんと出せなかったのは私の無計画な設定のせいです...現代編では活躍するように考えておりますので...!お気に入りキャラが見つかってくれていたら嬉しいです。明日から続編投稿しますね! (2021年4月25日 2時) (レス) id: c8ee31f7fe (このIDを非表示/違反報告)
ミトコンドリア君 - 異世界編、完結おめでとうございます!ほんとにほんとに今までにないくらい好きになってしまいました!登場人物たちもほんとに可愛くて...ひかる君とだてさん気になるところですね笑さらに現代編が楽しみになってきました!次のお話も絶対読みます! (2021年4月25日 0時) (レス) id: dfb6098aa7 (このIDを非表示/違反報告)
勾玉(プロフ) - ミトコンドリア君さん» 初めまして。コメントありがとうございます!初めての投稿なので読みづらいところも多いかと思いますが、手探りで進めております・・・続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。応援ありがとうございます! (2021年4月20日 23時) (レス) id: d721a78ff3 (このIDを非表示/違反報告)
ミトコンドリア君 - ご無理はなさらず、主様のペースで頑張ってください! (2021年4月20日 22時) (レス) id: dfb6098aa7 (このIDを非表示/違反報告)
ミトコンドリア君 - 初めまして!とんでもなくハマってしまいました...!こういうファンタジーみたいなお話すっごく好きでスノも好きなのでサイコーです!これからも応援しています! (2021年4月20日 22時) (レス) id: dfb6098aa7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:勾玉 | 作成日時:2021年4月18日 19時