つばめよ、最愛の迷惑者よ ／ pi ページ7
.
「え〜、私は結構好きだよ、最後のところとか絶対泣いちゃう」
『幸福な王子』は自我を持った豪勢な王子様の像が、貧しい人々のために自身に埋め込まれている宝石や金箔などをつばめに届けさせ、自ら見窄らしい姿になってまで人助けをするという奉仕精神を描いた物語だった。つばめは元々冬になる前にあたたかいエジプトを目指していたが、王子の優しい心に感銘を受けて、王子の部品を届けていた。そして最期は寒さ極まる雪の中、王子の唇にキスをして命を落とすのである。の後ぼろぼろになった王子の像は溶解炉行きになり、溶かすことのできなかった鉛の心臓とつばめの死骸は天使に拾われ、天国で二人幸せに暮らしたという。
「……王子は本当につばめを愛していたと思います？」
「へ？」
「本当につばめのことを愛していたなら、真冬の中に閉じ込めたりせずにさっさと南へ行かすべきでしょ。あのつばめは王子が殺したようなもんや」
ざらざらと、雨が窓ガラスを打つ音が聞こえる。先程まで見えていた夕陽はすっかり雨雲に覆われて、室温がぐっと下がったように感じる。彼は相変わらず隻手に頭を乗せたまま、手慰みにもう一つの手でシャーペンをくるくると回していた。
「身を投げ出してまで民衆を救っておいて、つばめだけは自分の都合が良いように殺すんです。勝手すぎません？良い迷惑やろ、つばめからしたら」
「王子が貧しい人々へ慈しみを向ける気持ちと、つばめへの愛情は少し違うと思うなあ」
軽い音を立てて弄ばれていたシャーペンが床へ落ちた。気づいていないのか、彼は斜め上にある私の顔を凝視したまま微動だにしない。拾おうと席を立とうとすると、ようやく手持ち無沙汰になった右手が私の手のひらに重なった。動けない。指先から机に負けず劣らずひんやりとする感触がした。末端冷え性なのかもしれない。触れるか触れないかの距離にある手を振り払うのは容易だけれど、じっとりと憂う目線と、この場を支配するほんの小さな冷たさから逃れることができなかった。可哀想だと思ったのだ。いかないで、と言われた気がした。
「違う？」
「え、ええと……民衆へ向ける愛情は絶対的なものだけど、つばめは少し打算的というか、人間的？」
「あぁ、
「そうそう。相手を優先する愛と、自分を優先する愛」
.
つばめよ、最愛の迷惑者よ ／ pi→←つばめよ、最愛の迷惑者よ ／ pi
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 70人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
芹本(プロフ) - 黎明さん» 黎明さまはじめまして！短編は長編よりも構成に力を入れているのでそのように言っていただけてとても光栄です。これからも自分の理想を書いていく予定ですので、長い目で待っていただけたら幸いです。 (2021年4月26日 0時) (
レス) id: b46413c3b6 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - はじめまして！とても美しい世界、言葉に思わず心が奪われてしまいました。素敵な出会いに感謝します、これから新しい作品に出会えることを楽しみにしています！ (2021年4月20日 22時) (レス) id: 4a8e4a3fa8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：芹本 | 作成日時：2021年4月20日 19時
