試験管の中から恋をしている ／ ci ページ3
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「それは？」
「黄色血滷塩……フェロシアン化カリウム水溶液だ。シアン化物といっても基本的に毒性はないから安心してくれていい」
「シアン化物ってどっかで聞いたような気するなあ」
「血液剤なんかの化学兵器に利用されていたりもするから、そこじゃないかな」
「ふうん？同じなのに、そいつは無毒なんですね」
「その通り、軍事的価値はまるでない失敗作という訳だね。活路と言ったら、こうして部屋の体感温度を下げる絵画の染料になるくらいだから。ねえ十二号、どうしてこいつには毒性がないんだと思う？」
「これはプログラムにはない、俺自身の考えですけれど」
丸いひとみが伏せられる。暫く長考するかと予想したが、彼はいつものように飄々と、けれど誇らかに口を開いた。
「有機物は試験管の中で恋をするんですよ。石英越しに映る科学者に。自分を見守ってくれる科学者に。早くあなたに会いたいなあって、ずっと側に居たいなあって。だから失敗作として出てくるんです」
「というと？」
「失敗作として出来上がってしまえば、ずっと博士の手元に置いてもらえるやん。染料だってその通りでしょ？」
「なるほど、一理ある」
「でもねえ」
瑞々しい月草が、風に吹かれたように踊る。彼は少しだけ首を傾けて、目頭と目尻を一本の線で結んでいた。それが無理やり作られたものであるのを証明するように、瞼が小刻みに震えている。
「科学者が恋をする相手も、失敗作やと思うんです」
「成功は何万人もの命を奪うけど、失敗は博士だけのもの。やから欲深い科学者は失敗を愛しているし、愛情を重ねるからこそ成功が生まれる」
「……少々理解しかねる部分はあるが、きみの思考力には感服するよ。後で記録に残しておこう」
「……生まれながらにしてヒトであった博士には、分からんくても無理はないですよ」
−−
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「私は負の感情を抱いた経験が少ないんだ。その質問には答えかねる」
「俺は十二号を殺しました。CN-01共有ネットワークから彼の脳内に破滅プログラムを仕組んだんです。だって、俺でもあいつみたいになれるって証明したかった」
その後にはでも、と続くのだろう。
「紛れもなく、あいつは天才でした。博士に見限られるのも、覚悟の上です」
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芹本(プロフ) - 黎明さん» 黎明さまはじめまして！短編は長編よりも構成に力を入れているのでそのように言っていただけてとても光栄です。これからも自分の理想を書いていく予定ですので、長い目で待っていただけたら幸いです。 (2021年4月26日 0時) (
レス) id: b46413c3b6 (このIDを非表示/違反報告)
黎明(プロフ) - はじめまして！とても美しい世界、言葉に思わず心が奪われてしまいました。素敵な出会いに感謝します、これから新しい作品に出会えることを楽しみにしています！ (2021年4月20日 22時) (レス) id: 4a8e4a3fa8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：芹本 | 作成日時：2021年4月20日 19時
