『センセイ。』【幸村精市】 (ページ10)

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家に着き、どの服にしようかと悩む。

『んー…これでいいかな』

選んだのは黒のタンクトップに淡い水色の半袖カーディガン。それに七分丈のズボン、ついでにネックレス。

着替えて、一応薄くメイクを施し、色つきリップを塗る。

『おし、おっけかな』

最後に髪を櫛で梳かし、お気に入りのバッグに財布とスマホを投入。

誰もいない家に「いってきます」をし、向かいの家にむかった。

ピンポーン、とチャイムを鳴らすと、心ちゃんが出てきた。

「Aお姉ちゃん！きた！！」

わくわく、と言った感じで弾む声。ついでに言うと、体も弾んでぴょんぴょんしている。

白地にカラフルなお花が描かれ、黒字で筆記体が書かれたTシャツに、膝上のスカート。
髪を片耳だけ掛けた姿は、一つ下とは思えないほど可愛らしく、大人っぽい。

リビングへ通されると、食卓で紅茶を飲むお兄さんと経子さん。
優雅な午後、て感じだ。

「準備してくる！」

そう言って2階へ駆けて行った心ちゃん。
多分荷物の準備だろう。

「Aちゃん、心が来るまで、紅茶でも飲みましょう？」

そう言って私の分の紅茶を淹れ、経子さんの隣、お兄さんの目の前にカップを置いた。

『ありがとうございます。いただきます』

椅子に腰掛け、猫舌なものだから、少し冷ましてからいただく。

紅茶とは不思議なもので、ひと口飲めばとても心が落ち着き、なんだかほっこりする。
口を離し、ほぅ、と息を吐く。

…なんだか視線を感じ、顔を上げるとお兄さんがこちらを見ていた。

私が首を傾げると、「ああ、すまない」と言葉を続けた。

「キミがあまりにも美味しそうに飲むものだから、つい、ね」
『……そうですか…？』

私としては普通に飲んでいたつもりだったが、傍から見れば、そう見えていたようだ。
まあ、不味そうに飲むよりは美味しそうに飲んだ方がいいだろう、と気にしないことにした。

ドタドタ、と階段を降りる音が聞こえ、リビングのドアが開く。

「準備できたよ！」

言うまでもなく、心ちゃんだ。

「フフ、じゃあ、行きましょうか」

経子さんが紅茶の最後を飲んだのを合図に、私とお兄さんは立ち上がった。

「行こ！」
と、私は心ちゃんに手を引っ張られ、お兄さんは3人分のティーカップを流しへ持っていき、経子さんはカバンを取って私たちのあとに続いた。