『センセイ。』【幸村精市】 (ページ3)

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綺麗な人だな、と思った。

7月下旬の今日。終業式を終え、心ちゃんと帰路を共にしている。
心ちゃんとは、引っ越して、挨拶に行った時からの付き合いだ。今日で4ヶ月ちょっと。

「ねぇ、Aちゃん！今日、夕食食べてってよ！！」
突然の夕食の誘い。我が家が引っ越してきてから、幸村家にはよくお世話になっていて。一緒に外食をしたり、映画館に行ったりと、家族ぐるみで仲がいい。
心ちゃんからの夕食の誘いも珍しい事ではなく、また私からもしかり。

『え、いいの？』

１ヶ月ほど前、今日、7月22日は何かあるって言ってたような…？
私もよく覚えてはいないが、言っていた気がする。それを心ちゃんに伝えるも、「忘れちゃった」の一言。

『ふふ、心ちゃんらしいや……。じゃあ、経子さんにOKもらえたらね』
「うん！！」

経子さんとは、心ちゃんのお母さん。綺麗で、優しいお母さんだ。
元気に返事をした心ちゃんにクスリと笑みが零れる。かわいいなぁ…。

日が傾き、空が茜に染まる頃、私達は家に着いた。

「たのしみだなぁ、Aお姉ちゃんとごはんだ！」

心ちゃんは、私の事をたまにお姉ちゃんと呼ぶ。
たまに私もふざけて「妹よ…」とか言ったりもするが、心ちゃんが本当に妹だったら、て、たまに思う。

「ただいまー」と、語尾を延ばして言う心ちゃん。

「……あれ、この靴って…」

「おかえり」

心地よく響く声。
ガチャ、と開いたドアから出てきたのは、心ちゃんによく似た、男の人。

……あれ、もしかして、この人って……

「お兄ちゃん！！」

私が答えを出す前に、心ちゃんの口から出た答え。
どうやらお兄さんが今日帰ってくる、というのを忘れていたらしい。

「友達？」

不意にそう聞かれ、なぜだかドクリと心臓が跳ねる。

「そう！向かいに引っ越してきたAお姉ちゃん！」
『AAです』
「はじめまして、心の兄の幸村精市です」

「よろしくね」、と言われ、『よろしくお願いします』と返した。

「あ！」

思い出したように心ちゃんが声を上げると、「お母さんいる？」とお兄さんに聞く。

「ああ、キッチンにいると思うよ」
そう返されると、「おかあさーーん！！」と慌ただしく駆けて行ってしまった。

取り残された私とお兄さん。
キッチンから聞こえてくる、「今日Aお姉ちゃんごはん食べてっていい？」の言葉に、帰りたくても帰れなかった。