『センセイ。』【幸村精市】 (ページ14)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:7,335 hit

11ページページ14

ASide

突然後ろから回された腕と、既に聞き慣れてしまった声に、酷く安心感を覚える。
じわり、と目に涙が浮かぶ。

お兄さんの方に目をやると、男達の方を睨んでいるのが分かる。
気まずくなって下を向くと、耳元で「合わせて、」と囁かれる。

『……せい、いちさん……』

初めて呼んだかもしれない…お兄さんの、名前。
名前を呼ぶだけで息が詰まって、心臓がドクドクと音を立てる。

あまりに大きな振動で身体を震わすそれに、お兄さんにも伝わっているのではないか、などと考え、羞恥でさらに大きな音を立てる。

ぎゅ、と、私に巻きついたお兄さんの腕にさらに力が入ったところで、男達は舌打ちをし、帰って行った。

「男持ちかよ…」
「マジ萎えるわ」

男達が去っていった安心感から、一層涙が溢れる。
何かに縋り付きたい、そんな一心で、お兄さんに体を向け、しがみつく。

羞恥とか、そんなの。もうどうだっていいや。

『おに…さ…っ』

ひぐっ、と、嗚咽を漏らしながらお兄さんの胸に顔を埋める。
優しく頭を撫でてくれる手に、また涙が出そうになる。

『あり、がとッ…ござ、ます…』

ぎゅっと、頭を胸に押し付けられる。

「……すぐに気づけなくて、ごめんね…」

怖い思いをさせたね、と、そのまま頭を撫でたあと、ここだとアレだし、席に戻ろうか。そう言って、私の涙を親指で拭った。

『……はい…』

席まで戻りながら、あることに気づく。

『あの……すみません…服……』

自分の服を見て気づいたのか、お兄さんは、いいよ、気にしないで、と笑った。

席に戻ると、心ちゃんが椅子に座って、足をプラプラさせて座っていた。

「……なんだ、帰ってこなくてもよかったのに…」

私たちに気づいた心ちゃんが、ぷぅ、と頬膨らませて言った。

「なんだ、酷いことを言うな」
「あのまま抱き合ってればよかったのに」

「『なっ…！？』」

心ちゃんに見られていた事実に、一気に顔に熱が集まるのがわかる。

み、見てたなら言ってくれればよかったのに…！！

そこで丁度経子さんが来て、2人して顔を赤くしているのを見られて不思議がられた後、4人で食事をとることになった。