『センセイ。』【幸村精市】 (ページ1)

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プロローグページ1

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カラカラとスーツケースを転がして、空港を出る。
数時間ぶりの直射日光が目を眩ませ、顔をしかめた。

「精市！！」

こっちこっち、と手を振るのは、俺の母さん。
空港内は人が多いから、外で待っていると言っていた。ちなみに父さんは仕事で、妹は学校。
言わずもがな、今日は平日。火曜日だ。

「母さん。ただいま」
「おかえりなさい！あら、また背、伸びたんじゃない？」
「うん。でも3センチくらいだよ」
「じゃあ私が縮んだのかしらね」
「フフ、そうかもね…」

そんなジョークを交えながら車まで歩く。
2年ぶりに見た母さんは、とても小さかった。

車に荷物を積み込み、車を走らせる事約10分。また、母さんが口を開いた。

「そう言えばね、お向かいさん、引っ越してきたのよ」
「ああ、山崎さんの？」
「そうそう。Aさんって言うんだけど、優しい家族でね。よく心と遊んでもらってるの」
「へぇ、いつ引っ越してきたの？」
「半年ほど前よ」

てことは、新学期が始まる頃か……学生の子供がいるのかな、なんて、勝手な推測を立てる。
数年空き家となっていたお向さん。
最近新しく人が入ったらしい。妹とも仲良くしてくれているようだ。

「着いたわよ」

そう言われ、やっと家に着いていた事に気づく。
「ありがとう」、と言って車を降り、後部座席から荷物を出す。久しぶりの我が家が、とても懐かしい。

全然変わってないな…

俺が前に日本に帰ってきた時と何ら変わらない、我が幸村家。
浦島太郎のように、帰ったら何もかも変わっていた、なんて、そんなことなく。故郷が、帰る場所がある、というのは、とても嬉しいことだ、なんて、若くして悟ってしまったな。……ってね。

俺は自室に戻って、荷物の整理を始めた。

整理も終わり、ダイニングで紅茶を飲んでいた時。
「ただいまー」そう、抜けた声が聞こえてきた。妹の心だ。久しぶりだし、たまには出迎えてやるかな、と、玄関に向かって歩き出す。

ドアを開けて、「おかえり」と、一言。

「お兄ちゃん！！帰るの今日だっけ！？」
「フフ、忘れてたの？」

「うん！！」と元気に答える妹に呆れつつ、隣の子に「友達？」と聞く。
やっぱり、自分の妹のことはとても心配で。

「そう！向かいに引っ越してきたAお姉ちゃん！」
『AAです』
「はじめまして、心の兄の幸村精市です」

これが、俺たちの初めての出会いだった。