Elf. ページ10
《 愛することは、いのちがけだよ。
甘いとは思わない。》
この身を滅ぼすのが貴女ならばそれでいい。
それがいい。
ただ名前を呼んで欲しかったのだ。
苦味も、渋味も、仄かな甘みも丸ごと私は愛せるのだ。
それほどまでに、焦がれていたのだ。
貴女に逢う、この日を。
「____A、だって?」
訳もなく声が震えた。
胸が詰まった。
苦しい。水の中で踠くように。
痺れていく指先が、触れたいと疼く。
燻った想いが、擦れた。
緋色の瞳を見た瞬間。
この世が滅んでしまってもいいと思った。
「A、なのかい…ッ?」
「…貴方は?」
酷い人だ。
私を掻き乱し、狂わせてもまだ、私を苦しめようというのか。
焦がれ続けていたのは私だけであると、それが愚かしいことであると、その緋色は告げるというのか。
私は精一杯なのだ。
私にはもう、これが最上であるのだ。
貴女が愛おしいという以外、私には真実なんてものはない。
その声が再び、私を呼んでくれなければ____この命の渇きは、消えないのだ。
「君が言ったのだよ?
____Please alive with me.
君が、私の生きる理由になると」
小さく、細い身体をこの腕に抱けたなら。
其れこそが、私がこの世に生まれ、生きてきた理由になるのだ。
《 おれは、この女を愛している。
どうしていいか、わからないほど愛している。
そいつが、おれの苦悩のはじまりなんだ。》
「貴方は、夢の……」
「そう、名前は」
《 けれども、もう、いい。》
____「私の本当の名前はね、」
「____修治、さん」
強く、強くかき抱いた。
力の入らない、弱い腕で。
亜麻色の髪に指を通して。
至上の幸福。
私はその名を知った。
その温かさを知った。
こうして、今初めて私は。
確かに自分が生きているのだと理解した。
自分が____人である事を認識した。
「……そう。そうだよ、A。
__私の、A。
君を、ずっと、……ずっと、こうしたかった…ッ」
自分が涙を流せる事に驚いた。
嗚咽を漏らして、子供のように泣きじゃくる事が出来るなどと思わなかった。
《 駄目な男というものは、幸福を受け取るに当たってさえ、下手くそを極めるものである。》
愛しき人。
私には、この喜びを、
この熱を
この高鳴りを
この溢れんばかりの愛しさを
知る限りの言葉では、形容できない。
貴女の名前以外に、
言葉が見つからないのです。
背を撫でる腕に、縋るしか。
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チョコ - 私中也が推しなんですけど、中也落ちでとてもおもしろかったです!文章の書き方凄くお上手ですね…素敵な作品有難う御座いました! (11月2日 20時) (レス) @page36 id: 521e64f565 (このIDを非表示/違反報告)
るぅと(プロフ) - 立原が好きで一気に読ませてもらいました!! 落ちは素敵帽子君でしたけど素敵なお話でとても満足です 素敵なお話有難うございました!、 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 4ba8ceef5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - とても面白かったです!!!続きが気になり一気に読んでしまいました笑 素敵な作品を作ってくださりありがとうございました♪ (2017年10月5日 9時) (レス) id: b2880a4db3 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 立原落ちの小説なくって...立原落ちの小説じゃなかったけどとても面白かったでした!!道造の小説増えて欲しい... (2016年12月14日 20時) (レス) id: c36e1fb932 (このIDを非表示/違反報告)
命乱(プロフ) - 所で…立原落ちの長編小説をリクエストって出来ないですよn((貴方様が書いてくれたら、もっとファンが増えるかと思ったんです…(・ω・`) (2016年11月24日 1時) (レス) id: 7f8e3351f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年8月5日 22時