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Dreiunddreißig. ページ32

馬鹿な男だ、と思った。
この男はもう何年も、母の背中を追い続けている。
その緋色が、弱々しくなるくらいに。




「私は、貴方に守っていただかなくとも生きていけるわ。私を守ってくれる人だってもういるもの。

私が貴方に会いに来たのは、この馬鹿な騒ぎを終わらせるように言うためよ。国に帰りなさい。私は貴方とは生きられない」




吃驚。傷心。憤怒。
色を変える男の表情を、ただ冷めた目で見ていた。

____呪われている。
この不快な力に、気高き緋に、すべて奪われ支配されている。
そしてその呪縛が解けぬまま、尚も母の面影を追っている。
哀れで滑稽で____なんて純粋な好意だろう。

襟を掴みあげる腕の強さも、目の奥の深い哀しみも、痛々しいほどに純粋だった。




「如何して分からない!?俺は君の為に何もかもを手に入れてきた!何時か、君を、君の力を守る為に!!君の父親が君を無理矢理婚約させたのだって、その力があるからだ!

その穢らわしい力を、俺は愛せる!
全部受け入れてやれる!
なのに……っ何故拒絶する!!」




____穢らわしい力。

たったひとつ、母が遺した力。
それがどういうものかは、幼き日から分かっていた。
何時か、こんな運命が来ることも知っていた。

それでも。

何者にも穢されたくない、譲れないモノを私は知ってしまった。
この全てを捧げたい人に、出会ってしまったから。
もう受け入れるだけの運命に抗いたくなったから。




「____好きな人がいるわ」

「…っは!?」

「貴方が、母を愛したように。私も、愛した人がいる。…この街に」




最初は、全て投げ捨ててしまいたかった。
得体の知れない男が、婚約者だと言われて。
恐ろしくて、嫌で。

荒い口調もガサツな態度も、何一つ気に入らなかった。なのに。

あんまりにも真っ直ぐに私を見るから。
誰も合わせようとしない視線を、合わせてくるものだから。
嘘偽り無く、何もかもを曝け出して、私の為に走る人だから。
私がいなきゃ____きっとダメだから。




「どんなに傷ついたって苦しんだって、私は構わない。
彼の人と一緒に生きれるなら、彼の人と不幸になるのなら、私は死ぬまで笑っていられる。
こんな力も、自分自身も愛せる。

運命を、変えられる」





きっと、貴方に出会ったあの日から。
私の運命はこの結末以外有り得ないのよ。









____「A!!!!」

Vierunddreißig.→←Zweiunddreißig.



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設定タグ:中原中也 , 立原道造 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
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チョコ - 私中也が推しなんですけど、中也落ちでとてもおもしろかったです!文章の書き方凄くお上手ですね…素敵な作品有難う御座いました! (11月2日 20時) (レス) @page36 id: 521e64f565 (このIDを非表示/違反報告)
るぅと(プロフ) - 立原が好きで一気に読ませてもらいました!! 落ちは素敵帽子君でしたけど素敵なお話でとても満足です 素敵なお話有難うございました!、 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 4ba8ceef5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - とても面白かったです!!!続きが気になり一気に読んでしまいました笑 素敵な作品を作ってくださりありがとうございました♪ (2017年10月5日 9時) (レス) id: b2880a4db3 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 立原落ちの小説なくって...立原落ちの小説じゃなかったけどとても面白かったでした!!道造の小説増えて欲しい... (2016年12月14日 20時) (レス) id: c36e1fb932 (このIDを非表示/違反報告)
命乱(プロフ) - 所で…立原落ちの長編小説をリクエストって出来ないですよn((貴方様が書いてくれたら、もっとファンが増えるかと思ったんです…(・ω・`) (2016年11月24日 1時) (レス) id: 7f8e3351f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年8月5日 22時

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