Achtzehn. ページ17
この世には、慈悲などない。
運命は当然交わり、絡み、軈て解けなくなる。
交差した衝動的な愛に、私は目を見開いた。
____「A」
____「っ……中、也……」
____「中也?」
喧騒が遠ざかる。
足が止まった、思考も止まった。
声が奪われた。繋いでいた手を、反射的に離した。
会いたかった。恋しかった。
焦がれてた。もう1度その声で名を呼ばれる事に。
安心した。私を覚えていてくれたことに。
でも____今は会いたくなかった。
嘘をついて笑う私を、見せたくなんてなかった。
貴方の傷ついた顔も、彼の傷ついた顔も、見たくなんてなかった。
裂かれそうなほど脈打つ心臓は、痛む。
時が止まっていた。
私を咎めるように、私の罪を____刻みつけるように。
「なんで、中也を知ってるんだい、A」
「そ、れは…」
「俺達が元婚約者だからだ、裏切り者」
____言わないで。
____もう何も言わないで。
____壊れてしまう。全部。
____壊してしまう、私が。全部。
苦痛に歪んだ横顔。絶望に歪んだ笑み。
どちらも私が招いた結果。
私は知らな過ぎた。
己の知る優しさに溺れ過ぎた。
私は知らなかった。
“拒絶”という優しさを。
それが、こんなにも2人を苦しめていた。
2人を____深く傷付けていた。
血のように光る緋色の目が、2人を捕らえてしまったのだ。
美しく完成されていた均衡を、崩してしまったのだ。
「婚約者は、私だよ中也。君がどう思おうと、Aは、私のモノだ」
「それは手前の勝手なエゴの押し付けだ。決めるのはA自身だろ?俺は言ったぞ、A。“幸せになれ”って。今の手前は幸せそうには見えねェな」
「黙れよ中也。君にはもう無関係なことだろう」
「無関係に出来たら良かったよ。心からそう思う。けどな……もう戻れねェんだ」
泣きそうな切ない顔で、貴方は遂に言ってしまった。
私が、隠し続けようとした言葉を。
大き過ぎる____罪の名前を。
鈍く光る藍色の瞳には、いつか見た熱が蘇った。
「____愛してしまった。この心が手前を忘れない限り、朽ちることがない程に」
欲しかった。
その言葉が、その熱が欲しかった。
でも手放せなかった。
私に縋る弱い手を、純な恋情を。
もう戻れないことを悟った。
この愛が、この恋が、どんなに愚かしく美しいかを悟った。
引き寄せられるように。
か細く灯った熱情は、壊れていくモノを知っていた。
767人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「太宰治」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
チョコ - 私中也が推しなんですけど、中也落ちでとてもおもしろかったです!文章の書き方凄くお上手ですね…素敵な作品有難う御座いました! (11月2日 20時) (レス) @page36 id: 521e64f565 (このIDを非表示/違反報告)
るぅと(プロフ) - 立原が好きで一気に読ませてもらいました!! 落ちは素敵帽子君でしたけど素敵なお話でとても満足です 素敵なお話有難うございました!、 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 4ba8ceef5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - とても面白かったです!!!続きが気になり一気に読んでしまいました笑 素敵な作品を作ってくださりありがとうございました♪ (2017年10月5日 9時) (レス) id: b2880a4db3 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 立原落ちの小説なくって...立原落ちの小説じゃなかったけどとても面白かったでした!!道造の小説増えて欲しい... (2016年12月14日 20時) (レス) id: c36e1fb932 (このIDを非表示/違反報告)
命乱(プロフ) - 所で…立原落ちの長編小説をリクエストって出来ないですよn((貴方様が書いてくれたら、もっとファンが増えるかと思ったんです…(・ω・`) (2016年11月24日 1時) (レス) id: 7f8e3351f1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年8月5日 22時