検索窓
今日:4 hit、昨日:29 hit、合計:236,509 hit

Funfzehn. ページ14

『 愛してた 』


過去形に出来たなら、どれだけ幸せだろう。
深い愛傷は、日を追うごとにこの身を蝕み、悩ませる。
悩ましさでさえ、愛を証明する要因のような気がしてきて、俺はもう分からなくなってしまった。

彼女に出逢う前の自分が、どう生きていたか分からない。
上手く生きられない。
あの娘が居なくては、自分は死に方しか分からなくなってしまったのだ。





「____中也。其方、ちとやり過ぎではないか?」

「……あ?」

「わっちは、其方が愚かしくてならぬ」





無心。
何も思い出せない。
生気の感じない赤い土の上に、ただ立っているだけの自分には、もう何も無かった。

ただ眠りたい。
何もかも忘れて眠りたい。
そうすれば、夢の中でなら____あの優しい温もりに逢える気がするのだ。

自制さえ振り切れるような黒く醜い感情の行き場を、目覚めてから探し続けているのだ。





「あの娘が、それほど恋しいのか?」




切なげな視線から目を逸らして、世界から意識を消す。
何も聞かれたくないし、何も答えたくなどない。
彼奴の心が、知りたいだけだ。
何かしていないと気が狂う。
あの憎い男と触れ合う彼奴を見るくらいなら、この手を染め続けていた方がまだ楽だった。

必死だった。
この胸の穴を埋めるのに、必死だった。
自分の知る術が、これしかなかった。
虚しさに吐きそうだった。





「____恋しくなんざねェよ」




恋しさなんて甘い。
そんな綺麗な甘さなんかじゃなくて、これは____そう。





「恋しさでは生温い。
彼奴となら、俺は喜んで不幸になれる」





たった1度じゃ足りない。
俺が欲しいのは、彼奴の全てなのだ。
声、髪、心、温もり、過去も未来も全部。

誰にも触れさせたくない。
この腕で、閉じ込めることが出来たら____
俺の残りの人生なんて幾らでも捧げてしまえる。





「なら、奪いに行けばいいではないか」





汚れた革の手袋を、ポケットに捩じ込んだ。
繊月の微かな光が此方を見ている。
鼻で笑って、髪をかき揚げた。





「奪う?それは違うぜ姐さん。
初めから、彼奴は俺の物だ」





あの純粋な色に
気がつけば染め上げられていたのは俺の心か。

Sechzehn.→←Vierzehn.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (344 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
767人がお気に入り
設定タグ:中原中也 , 立原道造 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

チョコ - 私中也が推しなんですけど、中也落ちでとてもおもしろかったです!文章の書き方凄くお上手ですね…素敵な作品有難う御座いました! (11月2日 20時) (レス) @page36 id: 521e64f565 (このIDを非表示/違反報告)
るぅと(プロフ) - 立原が好きで一気に読ませてもらいました!! 落ちは素敵帽子君でしたけど素敵なお話でとても満足です 素敵なお話有難うございました!、 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 4ba8ceef5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - とても面白かったです!!!続きが気になり一気に読んでしまいました笑 素敵な作品を作ってくださりありがとうございました♪ (2017年10月5日 9時) (レス) id: b2880a4db3 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 立原落ちの小説なくって...立原落ちの小説じゃなかったけどとても面白かったでした!!道造の小説増えて欲しい... (2016年12月14日 20時) (レス) id: c36e1fb932 (このIDを非表示/違反報告)
命乱(プロフ) - 所で…立原落ちの長編小説をリクエストって出来ないですよn((貴方様が書いてくれたら、もっとファンが増えるかと思ったんです…(・ω・`) (2016年11月24日 1時) (レス) id: 7f8e3351f1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年8月5日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。