Funfzehn. ページ14
『 愛してた 』
過去形に出来たなら、どれだけ幸せだろう。
深い愛傷は、日を追うごとにこの身を蝕み、悩ませる。
悩ましさでさえ、愛を証明する要因のような気がしてきて、俺はもう分からなくなってしまった。
彼女に出逢う前の自分が、どう生きていたか分からない。
上手く生きられない。
あの娘が居なくては、自分は死に方しか分からなくなってしまったのだ。
「____中也。其方、ちとやり過ぎではないか?」
「……あ?」
「わっちは、其方が愚かしくてならぬ」
無心。
何も思い出せない。
生気の感じない赤い土の上に、ただ立っているだけの自分には、もう何も無かった。
ただ眠りたい。
何もかも忘れて眠りたい。
そうすれば、夢の中でなら____あの優しい温もりに逢える気がするのだ。
自制さえ振り切れるような黒く醜い感情の行き場を、目覚めてから探し続けているのだ。
「あの娘が、それほど恋しいのか?」
切なげな視線から目を逸らして、世界から意識を消す。
何も聞かれたくないし、何も答えたくなどない。
彼奴の心が、知りたいだけだ。
何かしていないと気が狂う。
あの憎い男と触れ合う彼奴を見るくらいなら、この手を染め続けていた方がまだ楽だった。
必死だった。
この胸の穴を埋めるのに、必死だった。
自分の知る術が、これしかなかった。
虚しさに吐きそうだった。
「____恋しくなんざねェよ」
恋しさなんて甘い。
そんな綺麗な甘さなんかじゃなくて、これは____そう。
「恋しさでは生温い。
彼奴となら、俺は喜んで不幸になれる」
たった1度じゃ足りない。
俺が欲しいのは、彼奴の全てなのだ。
声、髪、心、温もり、過去も未来も全部。
誰にも触れさせたくない。
この腕で、閉じ込めることが出来たら____
俺の残りの人生なんて幾らでも捧げてしまえる。
「なら、奪いに行けばいいではないか」
汚れた革の手袋を、ポケットに捩じ込んだ。
繊月の微かな光が此方を見ている。
鼻で笑って、髪をかき揚げた。
「奪う?それは違うぜ姐さん。
初めから、彼奴は俺の物だ」
あの純粋な色に
気がつけば染め上げられていたのは俺の心か。
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チョコ - 私中也が推しなんですけど、中也落ちでとてもおもしろかったです!文章の書き方凄くお上手ですね…素敵な作品有難う御座いました! (11月2日 20時) (レス) @page36 id: 521e64f565 (このIDを非表示/違反報告)
るぅと(プロフ) - 立原が好きで一気に読ませてもらいました!! 落ちは素敵帽子君でしたけど素敵なお話でとても満足です 素敵なお話有難うございました!、 (2019年8月15日 16時) (レス) id: 4ba8ceef5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - とても面白かったです!!!続きが気になり一気に読んでしまいました笑 素敵な作品を作ってくださりありがとうございました♪ (2017年10月5日 9時) (レス) id: b2880a4db3 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 立原落ちの小説なくって...立原落ちの小説じゃなかったけどとても面白かったでした!!道造の小説増えて欲しい... (2016年12月14日 20時) (レス) id: c36e1fb932 (このIDを非表示/違反報告)
命乱(プロフ) - 所で…立原落ちの長編小説をリクエストって出来ないですよn((貴方様が書いてくれたら、もっとファンが増えるかと思ったんです…(・ω・`) (2016年11月24日 1時) (レス) id: 7f8e3351f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年8月5日 22時