三十七。 ページ42
瑞香はビルを見るのを辞め、コートの裏から双眼鏡を取り出す。
そして屋上の縁に手をついて、身を少し乗り出す。
双眼鏡越しで見つけたのは、豪速で走る単車に乗る、小柄な男。
中原中也だ。
瑞香は、中原が乱暴にスロットルを回して、速度を上げたのが見えた。
「中原、敵の射程距離に入った」
瑞香が警告する。
太宰はふっと笑うと、ふざけた様な軽い調子で話す。
「という訳で中也。弾受けて死 んでよね」
『うるせェ!』
「……気を付けて」
早速口喧嘩を始める二人に呆れ乍ら、瑞香は云った。
そして双眼鏡で、中原に対戦車榴弾が落ちるのを見て、息を呑む。
計三発撃たれた弾は、__けれども中原に中ることはなく、全て巧みな運転技術でかわされた。
そして双眼鏡を離すと、仮面をつけた男へと視線を向けた。
男が手を上げた途端、輝く雷電が夜空に走る。
再び双眼鏡を覗いた瞬間に、男の手が降り下ろされ、今度は稲妻が中原を襲う。
『チッ、クソ能力者か!』
異能の雷が直撃した様に見えた__
其処で、瑞香に衝撃が走る。
「うぐッ……」
監視員に殴られたのだ。
瑞香はフラつき、地面に座り込んだ。
屋上の縁から離れる。
そして太宰の方にも、監視員は殴り掛かる。
太宰は少しフラついたが、踏み留まる。
そして瑞香に駆け寄ると、瑞香に手を貸して起き上がらせた。
「……痛いじゃあないか」
「余計な事はするな、と云った筈だ」
太宰の口元にじわりと血が滲む。
太宰と監視員の視線が混じり、ピリッとした空気が流れる。
其の直後。
__ドゴォォッン
爆裂音が屋上に響き、激しい爆風が届く。
太宰と瑞香は、先刻の音や風とともに現れた爆炎を見る。
背後に立つ監視員は、尚も二人を見ていた。
其の視線を感じ乍ら、太宰はマイクにぽつりと呟いた。
「雷に打たれて死 んでたら面白かったのに」
「ぶっ殺 すぞ」
そう云った声とともに、爆炎は吹き飛ばされ、中原が不機嫌に現れた。
傷一つついていない。
「五分の遅刻だ」
と告げ、太宰は背後に居た監視員を蹴り飛ばす。
監視員は意識を手放した。
「おかげで一発余計に殴られた。Aに至っては二発もだ」
太宰がそう云うと、中原は瑞香を気遣わしげに見た。
「……瑞香、無事か?」
「気にしないで、大丈夫」
「ねぇ、私の心配は?」
太宰がそう訊ねると、中原は唇を歪めた。
「する訳ねェだろ。逆に殴り殺 してやろうか」
「君が殺すのは私じゃない」
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作者名:日之静海 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年9月13日 21時