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二十九。 ページ32

後日。
太宰、中原、瑞香の姿は、ポートマフィアの或る一室に在った。
報告書の作成である。

中原、瑞香は黙々とパソコンに向かっていたが、太宰一人だけは机に臥せっていた。

「……太宰、書類作成」

パソコンから目を離さない儘、瑞香は太宰を注意した。
太宰はむくりと顔を上げ、怠そうな口調で云う。

「だってぇ、遣る気が出ないんだもの」

昨夜の悪魔は何処へやら。
現在の太宰は、何時も通り(・・・・・)の調子だった。

中原が席を立つ。
そして太宰に近付き、頭を殴ろうとするが、太宰は見事にかわした。
太宰が椅子に凭れ反り、顔が上に向く。

「チッ……ぐたぐた云ってねェで、颯々と書け」

其の儘太宰を通り過ぎ、中原は瑞香の方へ行った。
そして「此れ頼む」と書類を渡し、再び自分の席へ戻った。

「ねぇA、心中しに行こう?」

「終わったらね」

「否、終わっても行くンじゃねェよ」

何処かズレた会話に、中原は呆れ乍らツッコミを入れる。
しかし太宰は気に止めず、顔を瑞香の方へ向ける。
目がキラキラとしていた。

「……其れ、本当?」

「本当。だから颯々終わらせよう?」

「判った」

太宰がパソコンを開き、起動させる。
そして作成画面を開くと、驚異的なスピードでタイプし始めた。

中原は驚きと呆れが混じった表情で、太宰と瑞香を見た。
瑞香の方は、気に止めずにタイプを続けていたが。

「……終わった」

「早くねェか?」

瑞香がパソコンを閉じ、伸びをする。
そして立って入り口の方へ歩む。

其の後ろ姿を、中原は呆然と眺めていた。

「待って、A」

ガタッと音を鳴らし、太宰が席を立って、瑞香に駆け寄る。
そして中原はハッとし、太宰に声を掛けようと口を開く。
が、其の前に太宰が云った。

「あ、云っておくけど、終わったからね。中也、邪魔しないでよっ!」

そう云い残し、太宰はバタンと扉を閉めた。

中原は追い掛けようとするが、其の前に太宰のパソコンを確認する。

追い掛けようと思えば、何時でも追い掛けられる。
其の前に本当かを確かめた方が善い。

中原はそう判断したらしい。
太宰の書いた報告書を流し読みしていく。

しかし、其の書類は完璧であった。
見易く、詳細に書かれている。

参謀だった太宰の方が、書く事は多い。
にも関わらず、完璧に、早く終えた。

中原は信じられないものを見る様な目つきをし、再び自分の作業に取り掛かるのだった。

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作者名:日之静海 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年9月13日 21時

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