二十一。 ページ24
「だ〜ざ〜いっ」
「何だい、A？」
場は、二人の住居。
瑞香は、
入浴後の様だ。
「……取り敢えず、髪を乾かそうか」
太宰は、瑞香を椅子に座らせる。
そして、ドライヤーを持ち、瑞香に向ける。
ドライヤーから、ブォーと云う音が鳴り始めた。
「で、どうかした？」
ドライヤーの音の中で、太宰は何時もより声を張る。
瑞香もまた同様に、声を張って返事をする。
「何でも無い。太宰と話したかっただけ」
「じゃあ、最近の事でも話す？」
「最近は、ずっと一緒に居るけどね」
瑞香は太宰の方に振り返り、嬉しそうに笑っていた。
太宰は笑みを返すと、「ほら、前を向いて」と注意した。
瑞香は笑い乍ら、前に向き直る。
端から見れば、唯の仲の佳い兄妹だ。
そんな二人は最近、共に居る事が多くなった。
其れは同居を始めたからもあるし、ポートマフィアに加入したからでもある。
任務では、流石に何時も一緒と云う事はないが、組む事もある。
任務がない時は、基本的に手を繋いで移動をしたり、太宰の膝に瑞香が乗る形で、共に本を読んでいたり、一緒に自 殺していたりする。
家でも同様に、入浴以外では常に一緒だった。
就寝時でさえ、手を繋いでいたり、抱き締めあっていたりして、互いから離れない。
其れは瑞香の異能力を無効化し、瑞香を成長させる為だ。
其の筈なのだが、最近は何処か違う。
お互いに身を寄せ合う様に側にいる、小動物の様な雰囲気があった。
しかし大人数には、唯の兄妹だ。
優しい兄と、人見知りの妹。
街を少し歩いた時、二人に持たれる印象は其れだった。
「ねぇ、太宰」
不意に、瑞香が口を開く。
「有り難う、何時も一緒に居てくれて」
「……其れは、お互い様じゃあないのかい？」
「そうかもね」
ドライヤーの音が止む。
そして太宰は、瑞香の髪を梳し始める。
瑞香は嬉しそうに、鼻歌をし始めた。
「……最近、佳く笑うね。前より明るくなった」
「そう？」
瑞香は適当に相槌を打って、再び鼻歌を始める。
太宰は其れを微笑まし気に見ていた。
マフィアに居る時とは違う、慈愛を持った表情だ。
髪を梳かし終え、太宰は不意に訊く。
「けど私が居ない時は、あまり笑わないんじゃあないのかい？」
瑞香は鼻歌を止める。
太宰は変わらぬ微笑みで、続けて訊いた。
「矢っ張り、未だ怖いのかい？」
「……」
其の質問に、瑞香が答える事はなかった。
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作者名：日之静海 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月13日 21時
