十七。 ページ20
自室で寝て、本を読んで、また寝て。
そんな或る意味では規則正しいを送っていた瑞香は、大体2、3週間が経った辺りで、違う行動を起こした。
自室から、嘗て着ていた服を探し出し、其所に包まれていた物を取り出したのだ。
其れは、短刀だった。
森に拾われた時に持っていた、彼の短刀。
其れを持っていた包帯で、自らの太腿に巻き付ける。
鞘がない状態なので、短刀が瑞香の太腿を傷付け、包帯に薄っすらと血が滲んだ。
しかし瑞香は気にせず、外に出た。
ヨコハマの空に向かう様に
すれ違う人々は、瑞香を訝しんで見たが、直ぐに視線を外す。
暫く歩いていると、黒塗りの高級車が、瑞香の横で止まった。
後部の窓が開き、中から森が顔を見せる。
「Aちゃん」
「……予想より早かった」
「若しかして、迎えに来る事を予想していたのかい?」
其の問いに、瑞香は首肯いた。
森が後部の扉を開け、奥に移る。
どうやら、乗れと云う事らしかった。
瑞香は車に乗り込む。
「却説、迎えに来た理由だけど」
「手古摺っていた問題が解決した。だから私を勧誘しに来た。……中ってる?」
「正解だよ。……で、どうするのかい?」
森が瑞香に視線を送ると、瑞香は無表情の儘、
「云った通り。……加入する」
と云った。
其れに、森は満足そうに笑った。
そして、膝に乗せて持っていた箱を、瑞香に渡す。
「……開けて佳い?」
瑞香が森に訊くと、森は首肯いた。
箱を開け、中に在る物を取り出す。
入っていたのは、黒の外套だった。
「因みに、太宰君にも同じ物を贈ったよ。まぁサイズは違うけれどね」
瑞香はそんな事を聞き乍ら、外套を肩にかける。
腕を通そうとしたが、肩幅が広く、通す事が出来ない様だった。
肩の部分が、広過ぎて垂れてしまっていた。
「……有り難う」
瑞香は、小さく呟いて、箱の蓋を閉める。
そして、暫く無言の状態が続いた。
「……そう云えば」
森が思い出した様に口を開いた。
「食事、ちゃんと取ってた?置手紙で書いておいたのだけど」
「……『冷蔵庫の中の物は好きに使って佳いよ』?」
思い出した様に、瑞香が訊く。
森は、或る予感がして、けれど笑顔を張り付けて話す。
「そう、其れだよ」
瑞香は、車の天井を見上げ、次に顔を下に向け、手をお腹に中てる。
「……忘れてた」
「3週間も?」
「うん」
「……」
其処からマフィアに着くまでは、無言が続いたのだった。
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作者名:日之静海 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年9月13日 21時