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俺に気が付いたAさんが、左右に揺れながら立ち上がり、顔を上げた。口元は青白い手で覆われ、指のすき間からは、ちらちらと赤が見えた。特徴的な青い眼鏡にも赤が飛び散って、いびつな模様を描いている。何も言えずに黙っていると、Aさんが、

「やあ。」

それでも俺が何も言えずにいると、Aさんは困ったように、赤く染まった爪先で頬を掻いた。


「いやあすまない、驚い」


突然、Aさんが言葉を止めて、折れそうなほど細い体をくの字に曲げた。さっきと同じように、口元に手を添えて、ぜえぜえと荒い息をしている。そこでやっと、止まっていた俺の頭が動いた。


「あの、大丈夫ですか。」
「だいじょ、おふ、っ、」


Aさんの体が、痙攣したように大きく揺れて、前に傾いた。腕を伸ばして受け止める。と、弱弱しく、体を押された。


「あの、本当に大丈」


大丈夫か、ともう一度聞こうとして、Aさんの声に遮られた。早く離れて!先ほどまでとは打って変わった、その剣幕に息をのむ。早く、早く離れて!いつまでたっても離さない俺を、またAさんが押した。


「離れろ、って。アンタ倒れそうじゃないですか」
「早く!」


『く』が、声にならないまま、苦しそうな喘ぎに変わっていた。
Aさんが、吐き出すように咳をする。おふ、おふっ、という特徴な咳。彼女の頭がある胸から、腹部にかけて、生温かい何かが広がった。

「あ、の。」


ぎこちなく、Aさんに視線を合わせる。青白い肌を彩る、鮮烈な赤に目を奪われた。見れば、俺のシャツにも同じものが付いている。血!


「すまない、ね。いや、ほんとうに、すまない。」


顔を上げたAさんが、何度も謝っては、視線を宙でぐるぐる泳がせている。苦しいはずなのに、俺から離れて、不自然なほど明るい笑顔を浮かべていた。


「病気、なんですか。」
「そうだよ。」


思わず不躾な質問をした俺を、Aさんが、いたずらを見つかった子供のような顔で覗き込む。


「吐血、大丈夫なんですか。」
「いいや、これはカッケツというんだよ赤葦くん。」
「カッケツ。」


漢字は思い出せなかったけれど、血を吐くのに変わりはない。だから、Aさんは、ただの風邪なんかじゃなく、重い病気だ。

混乱したまま、状況が呑み込めない俺に、Aさんが笑う。


「私、もうすぐ死ぬんだ。」


瞳の奥が、俺を責めているような気がした。

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朝町さなぎ(プロフ) - アルさん» ありがとうございます!初めてですが頑張ります…! (2019年8月9日 23時) (レス) id: 943be826ce (このIDを非表示/違反報告)
アル - 続き気になる!更新頑張ってください! (2019年8月9日 23時) (レス) id: 490ab1aedc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:朝町さなぎ | 作成日時:2019年8月9日 22時

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