銀狼【銀魂】21

第九百四十五訓 芸術家タイプの人間は何かと難しい ページ14

「べー」と舌を出して笑うと、思いの外イノシシ女が頭にきていたらしく、ギャーギャーと取っ組み合いになった。

互いの髪を掴み合い、くだらないキャットファイトを繰り広げてると、高杉がすぐ隣を通り過ぎる。


高杉「約束通り送ってやらァ。早く来い」


こちらを見向きもせず、歩き去っていく高杉。

…まったく、相変わらず無愛想だね、ウチの兄貴は。

あたしはすぐに取っ組み合いをやめ、高杉の背中を追いかけた。


＊＊＊＊＊＊＊＊


武市「Aさんは素直ではありませんね」

A「は？」


高杉の船の中。ふとあたしにそう言ったのは、変態ロリコンだった。


武市「口では晋助殿を嫌ってはいても、心の底ではまだ慕っているようでしたから」

万斉「なるほど。ツンデレ、というものでござるか。…微笑ましいな」

A「ツンデレじゃねーし。つーか何万斉さんまで便乗してんの」


オイここって仮にも攘夷志士組織の中心部だよね？何でこんな緊張感ゼロなの。絶対おかしいって。ねえ。

三味線の弦を少し緩めながら、さらに続ける。


万斉「いくら“銀狼”と恐れられていても、所詮はただの子供。最強でありながら未熟…そのアンバランスこそが、ぬしであるのだな」

A「はあ？何それ」


んー、現役音楽プロデューサーの考えてる事はわからんな。
芸術肌タイプは意思疎通が難しくてどうも、ねェ…


万斉「…子守唄(ララバイ)」

A「え？」

万斉「先程の晋助から…そんな優しい歌が奏でられたものでな」


ララバイ…子守唄って要するに、幼い子供を寝つかせるための歌だろ？
そいつが聴こえてきたって…どういう事だ？

一人首を傾げるあたしに、万斉さんは微笑を浮かべながら三味線を搔き鳴らした。


＊＊＊＊＊＊＊＊


高杉に送られ地球に到着したあたしは、船のタラップを降りようとしていた。

ここは江戸の普段誰も来ない埠頭。こんな場所を知っているなんて、伊達にテロリストやってないね。


A「世話になったね。ありがとう、高杉」

高杉「…フン。敵に礼を言うたァ、相変わらず甘ェ女だな」

A「それで結構。でも、今度会う時は容赦しないから」


口元に笑みを残しつつタラップを降りると、背後から何かが飛んでくる気配が迫ってきた。

咄嗟にそれをかわすと、それは綺麗な着地を決める。

傘をさしたままよくそこまで暴れられるもんだ。夜兎ってのはなかなかに見込みある奴ばかりだな。

第九百四十六訓 兎と狼→←第九百四十四訓 トラウマは決して抜け出せない迷宮

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す