『万人斬り』の刑務官【ナンバカ】season:12 (ページ28)

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ナイル達に向き直ると、彼女は言葉の意味をすぐに理解した。

「なんか…スピード落ちてなくね？」
「あの球は、手元に戻るまで減速することはない。もし狭い空間でこいつを打ったらどうなるのか。俺でも想像するのが怖いね」

壁にぶつかり、跳ね返りを繰り返す。鉄壁の防御を誇る守護が、仇となってしまったのだ。防壁の中を暴れ回るボールの攻撃が、絶え間なくナイルとケペルを襲い続けた。
奇跡のような大どんでん返しに、会場が喝采に揺れる。

「うわ、地獄絵図かよ」

しかし、当の本人は、他人事のように呟いていた。
五浄の風を利用し、アキからボールを奪って、ナイルを打倒した。それら全てを成し得て、目の前の結果を生み出したのは自分自身だというのに、それに対しては無関心。彼女は、己のした事を何とも思っていないのだろうか。

上の舞台から地面を見下ろすウノは、様子を見届けつつ溜息を吐いた。

「ったく…相変わらず無茶苦茶しやがるぜ。ま、そこが志乃ちゃんのすげぇとこなんだけどよ」

これが、“万人斬り”銀。そして、十三舎看守・吉田志乃。
最強と名高いその実力を、改めて全員に見せつけたのだった。

一方、彼女と同じく地上に佇む九舎代表・シスは、割れんばかりの歓声など気にも留めず、ただただ真っ直ぐに志乃を見つめていた。
いや、目が離せなくなった、という方が正しいだろう。彼は先程からずっと、志乃が自分で発した言葉が忘れられない。

ーーこの私を誰だとと思っている？この世で最も恐ろしく最も強い、“万人斬り”銀(シロガネ)様だぞ。

そんな。そんなまさか。だって、彼女はここにいる大勢の看守の一人。死神教の布教活動を続ける中で、耳を傾けてくれた人。

ありえない。まさか彼女が。

「…………、銀(シロガネ)様…！？」

己の信仰する、現人神だったなんて。