優し過ぎる彼女【轟side】 ページ50
「……そっ、か…」
於野はそれを聞いて、ホッとしたのと同時に身体から力が抜けた。縋るように握ってた俺の服から手が離れ、畳に落ちる。
余程心配だったのだろう。特に一緒に暮らしてる相澤先生が。安心した於野の目には大粒の涙が溜まり、それが頬を伝っていた。
ゴシゴシと涙を拭う於野の頭を撫でて慰めると、ぎゅううと抱きついてきた。小さく鼻を啜る音が聞こえて、何も言わずに髪を梳く。
…こうして見ると、やっぱりいつもの於野だ。特に何も変わった様子はない。同い年なのに妹みたいな、いつもの於野だ。
だが、俺の脳裏に姉さんとのある会話が過る。
『焦凍…あの子、どういう子なの？』
『？』
『さっきあの子の服を着替えさせてたんだけど…背中に…大きな火傷の痕が残ってたの。なんか、文様みたいな形をしてた…』
文様のような形をした、火傷の痕。服越しに、例の傷痕がある背中にそっと触れてみた。於野は特に何も言わずただただ泣いていたが、触れた瞬間ビクッと身体を震わせた。
きっと於野は、俺達に言えない程の大きなものを抱えているんだろう。USJ事件の時、
俺の腕に収まるような、こんな小さな身体で…於野は一人で戦い続けていたのか。
「…於野」
「……？」
優しく頭を撫でる。俺を見つめる向日葵色の目はどこか潤んでいた。
「……………」
ーー背中の傷は痛むか？
それとなく訊いてみようとした。だができなかった。訊けば、きっと於野を傷つけてしまう。
ヒーローを目指してるからには傷の一つや二つは付き物だろうが、
きっと誰かが故意に、於野の背中に焼印の類を用いた可能性が高い。一体誰が、何故そんな酷い事を…
「轟くん」
不意に名前を呼ばれて、意識を目の前の彼女に移す。
「轟くんは大丈夫？怪我とかないの？」
小首を傾げて、俺の頬に手を伸ばす。微かに接触した指先が、彼女の温度を俺に伝えていた。案じるような眼差しを受けて、何も言えなくなる。
於野は優し過ぎる。この間の事件で傷ついたのは他ならぬ彼女のはずだ。なのに於野は自分のことなど顧みず俺の心配をしてくれている。
「…俺は何ともねえよ。さっき言ったろ」
「うん…なら、よかった」
そう言って、ふにゃりと笑う。
…やべえ、今の超癒された。
「於野」
「？」
「また“お兄ちゃん”って呼んでくれねえか」
「え」
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作者名：ミサ | 作成日時：2018年9月1日 12時
