小話：名前 ページ48
「なあ、名前で呼んでくれへん？」
定位置になりつつあるいつものソファーで、Aは静かに漫画を読んでいた。
そんな時、突然隣からその言葉を投げ掛けられる。
「……名前？」
ぱちくりと瞬きをするAが頭の中で印象に残った彼の言葉を繰り返す。
どうやらそれにあまり理解が出来なかったらしい彼女の様子に、ゾムは少しむくれたような表情を見せ、せや、と口を開いた。
「他の奴らは皆名前で呼んでるやん。せやったら、俺のことも名前で呼んでや」
この前の宴で、Aが彼らのことを敬称付けた名前で呼んでいたのをゾムは聞き逃さなかった。
何度か会ったことのあるコネシマ達ならまあ分かる。だが、ほぼ初対面だったショッピやチーノでさえ名前呼びをしていたのだ。
その時に彼は思った。自分だけが彼女に名前呼びをされていないと。
最初はそう呼ばれることは仕方がないと思っていた。自分の職業上、そう簡単に見知らぬ相手に名前を明かすことなんて出来ないからだ。
そして何だかんだ彼女にそう呼ばれ続けることに自分が慣れてしまい変えようとしなかったからこそ、今こうして後悔する羽目になってしまった。
自分だけがお兄さん呼びをされているのは周りからすれば違和感を覚えることだろう。だからと言って別に周りの視線など気にならないし、彼女との親密度が低いとも思っていない。
ただ、此処まで仲良くなったのだから、出来れば名前で呼んで欲しい——。
そんなゾムの些細な我儘なのだ。
彼の言葉にAは確かに一理あると思った。此処に来る前から勝手にそう呼んで、特に彼から何も言われなかったから、ずっとそれで呼び続けている。おかげですっかり浸透してしまって、逆に彼の名前を呼ぶのに気恥ずかしさを感じてしまう。
だが、自分の我儘を快く受け入れてくれた恩人の願いを拒否するのはそれはおかしな話だ。そう思案したAはそれを承諾することにした。
「えっと……じゃあ、ゾム、さん？」
「……何でさん付けやねん」
今まで、と言うか最初から敬語無しで散々会話をしてきた相手に、突然敬称を付けて呼ばれる程悲しいものはない。前の呼び方に引っ張られたと言うのもあるだろうけれど、流石にそれは傷付く。
明らかに不機嫌になった雰囲気を醸し出すゾムにAは少しだけ焦り出す。
仕方がないのだ。別の呼び方で慣れてしまった想い人の名前を呼ぶのは意外と勇気がいるのだ。
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抹茶ちよこ(プロフ) - 。さん» 。さん、こちらの作品を読んで下さり誠にありがとうございます！続編はあります。リンクが連携されていない理由と検索方法はコメント欄にあります(このすぐ下です)お手数をお掛けして申し訳ございませんが宜しくお願い致します。 (3月29日 20時) (
レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
。 - 作品が好きで見させてもらっています。作品一覧に3が無いのですが、削除されてしまっていますか？ (3月29日 4時) (レス) id: fadf2e6ab2 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - から入って探して頂ければと思います。申し訳ございません。ですがR18作品なので勿論18才未満の方の閲覧はご遠慮しております。もしそうでなければ、どうぞ続きをお楽しみ下さい！ (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 青さん» 青さん、ご感想ありがとうございます✨こちらの続編ですがR18作品になっておりまして、占ツクの仕様上、健全物とR18はリンクを紐付けることが出来ないようになってまして…。なので続編はお手数ですが私の名前をクリックか、↑の「この作者の作品を全表示」と言う所 (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
青 - とても好きです。2の続編が見つけられず…どこから観れるか教えていただけませんか？ (12月2日 15時) (レス) id: 437b233046 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2021年9月16日 15時
