26 ページ26
「ちぃっと長期の任務に行ってくるわ」
ゾムからそう言われたのはつい先日。
何やら情報部と連携しての潜入捜査で情報収集をするらしい。より多くの情報を手に入れる為、いつもより時間を掛けるとのこと。そう言った彼は暴れられない不満を零しながら部屋から出ていった。
彼が部屋を留守にするのは別に珍しくもない。だがあくまでそれは一日二日程度の話で、今回のように数日間、しかも帰ってくる日が決まっていない任務はAが来てから初めてだった。
しばらく彼の姿を見られないことにAは落胆する気持ちを隠し切れず、その日から少しだけやる気を失せていた。常に彼の姿を頭の中で思い浮かべる彼女の耳には他人の言葉があまり入って来なかった。しかし流石に教育係の先輩の話だけでも集中して聞き、エーミールもまた別件で屋敷から数日離れると言うことだけは頭に残した。
いつも通り、与えられた仕事を卒なくこなし、今日は比較的穏やかに一日が終われるかと思われた。
「ねえ、頼みたい仕事があるんだけど」
だがそう簡単に行くわけがない。
Aの下に一人の先輩が近付いて来た。
屋敷の端にある倉庫を掃除して欲しい。その場所まで案内するから、と彼女は貼り付けた笑みでそう言った。
底冷えしそうな瞳に嫌な予感を覚えつつも、どうせ拒否権なんてないのだからとAは少し間を置いた後了承の言葉を吐いた。
掃除用具を持ち、先輩に連れられて段々と人気が無くなっていく廊下を進む。そして着いた場所は静寂の中に佇んでいる木製の扉の前だった。扉は見た目からして大分年季が入っていて、それを物語るように開けたらギィ、と古びた音が鳴った。
それじゃ頼んだわよ。隠し切れてない嘲りを含む笑い声を漏らした先輩はつかつかと来た道を戻っていく。その後ろ姿を少しだけ見送ったAは気を取り直して部屋の中へと入っていった。
扉近くにあったスイッチを押すと室内灯が点く。電気が通っていて良かった。なんて心配する所はそこではないようなことを考えながら周りを見渡す。
確かに此処は倉庫のようだ。所狭しと並べられた木製の棚には色んなものが置かれている。だがどれも埃を被っていて、長い時間誰の手にも触れられていないことが一目瞭然だった。
一体この部屋はどれぐらい放置されて来たのだろうか。恐らく此処を掃除した所で、この後誰も利用しないのだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 182人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
抹茶ちよこ(プロフ) - 。さん» 。さん、こちらの作品を読んで下さり誠にありがとうございます！続編はあります。リンクが連携されていない理由と検索方法はコメント欄にあります(このすぐ下です)お手数をお掛けして申し訳ございませんが宜しくお願い致します。 (3月29日 20時) (
レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
。 - 作品が好きで見させてもらっています。作品一覧に3が無いのですが、削除されてしまっていますか？ (3月29日 4時) (レス) id: fadf2e6ab2 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - から入って探して頂ければと思います。申し訳ございません。ですがR18作品なので勿論18才未満の方の閲覧はご遠慮しております。もしそうでなければ、どうぞ続きをお楽しみ下さい！ (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 青さん» 青さん、ご感想ありがとうございます✨こちらの続編ですがR18作品になっておりまして、占ツクの仕様上、健全物とR18はリンクを紐付けることが出来ないようになってまして…。なので続編はお手数ですが私の名前をクリックか、↑の「この作者の作品を全表示」と言う所 (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
青 - とても好きです。2の続編が見つけられず…どこから観れるか教えていただけませんか？ (12月2日 15時) (レス) id: 437b233046 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2021年9月16日 15時
