03 ページ3
○目の前に居る彼の体越しに俯かせていた視線をそちらへ投げると、鮮やかな緑色が視界に入る。隠された目元の奥から彼の視線が向けられている気がして、Aは微かに目を見開いた。
「どうかしましたか？」
「いや、こいつ探してたんや」
ゾムはいかにも分厚そうで重量感のあるブーツを履いているが、二人に歩み寄るその靴底からは意外にも何も音がしなかった。おそらく職業病の一種なのだろう。
徐々に近付いてくる彼にAはただただ首を傾げて待つしかなかった。彼が自分の仕事中に声を掛けること自体珍しいのに、その上何か用事があるなんて。
「グルッペンに、こいつ連れて来いって頼まれたんや」
え、グルさんに？
彼の口から出た名前に、先に反応したのはエーミールだった。彼が目を見開いて首を傾げている中、一体誰の名前なのか、と一人話に取り残されたAは二回瞬いた後、目を丸くした。
ゾムが呼び捨てにするくらいなのだから同じ幹部の者なのだろうか。いやしかし、そんな人がこんな新人の使用人に用があるとは思えないのだが。聞き覚えのない名前の先にいる人物に、彼女はますます首を傾げざるを得なかった。
「てな訳で、A、行くで」
「え、でも仕事……」
「戻ってからで構いませんよ。そちらを優先してください」
急な予定変更に不安げな表情を見せる彼女をエーミールが優しく背中を押す。最上の上司にそう言われてしまえば留まるわけにはいかず、Aは一瞬だけ返答に迷った後、渋々了承の意を口にした。
掃除用具を道の端に寄せながらどこまでモップ掛けをしたかを確認して記憶した後、待っていたゾムの方へ体を向ける。目が合った瞬間、意図を汲んだ彼は「じゃな、エミさん」と傍らの紳士に別れを告げた後踵を返した。Aも彼の横を通る時にまた軽く会釈をしてから、その緑色の背中を追いかけた。
エーミールと別れて、完全に二人っきりになった廊下を進んでいく中、先程から疑問を思っていたことを聞こうとAは口を開いた。
「ねえお兄さん、そのグルッペンって言う人、誰なの？」
「俺らの
えっ——。背中越しに聞こえてきた声に、一瞬足が止まりそうになった。
彼女の頭の中でその単語が何度も反芻されて、ようやく聞き間違いではないと実感した彼女は大きく目を見開いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 182人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
抹茶ちよこ(プロフ) - 。さん» 。さん、こちらの作品を読んで下さり誠にありがとうございます！続編はあります。リンクが連携されていない理由と検索方法はコメント欄にあります(このすぐ下です)お手数をお掛けして申し訳ございませんが宜しくお願い致します。 (3月29日 20時) (
レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
。 - 作品が好きで見させてもらっています。作品一覧に3が無いのですが、削除されてしまっていますか？ (3月29日 4時) (レス) id: fadf2e6ab2 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - から入って探して頂ければと思います。申し訳ございません。ですがR18作品なので勿論18才未満の方の閲覧はご遠慮しております。もしそうでなければ、どうぞ続きをお楽しみ下さい！ (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 青さん» 青さん、ご感想ありがとうございます✨こちらの続編ですがR18作品になっておりまして、占ツクの仕様上、健全物とR18はリンクを紐付けることが出来ないようになってまして…。なので続編はお手数ですが私の名前をクリックか、↑の「この作者の作品を全表示」と言う所 (12月2日 18時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
青 - とても好きです。2の続編が見つけられず…どこから観れるか教えていただけませんか？ (12月2日 15時) (レス) id: 437b233046 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2021年9月16日 15時
