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○周りを見回し遠くの方まで目を向けても、やはり目当ての緑色は見当たらず。ふう。思わず零れる溜め息。彼は、何処にいるのだろうか。
「……」
Aは一度立ち止まり、朝独特の爽やかな空気を肺一杯に吸い込んだ。そして何の気なしに視線を外へと向ける。
彼の緑にも負けない、色鮮やかな森が朝日に照らされて酷く綺麗だった。Aは思わず見惚れてしまう。
相変わらず静かな場所だ。以前いた所も随分静かだったが、此処は別格だ。まるで世界に自分しかいないのではと錯覚してしまうほどで。聞こえるのはこの屋敷を取り囲む森の、風に揺れる葉音くらいだ。
外界から遮断された空間。普通では辿り着くことの出来ない境地。
なのに目の前に広がる景色は外界のものとほとんど変わりない。だからAは時折、此処が本当に箱庭なのかと一瞬疑ってしまうことがある。もしやこの森の奥、此処からずっとずっと向こうに進んでいけば、いつか見知った場所に出られるのではないかと。
だが例えそうだとしても、彼女にはそうする気などさらさらないが。
今や彼女の世界は此処だけになってしまった。しかし彼女に後悔はない。全てを捨てた代わりに、何よりも望んだものを手に入れたのだから。
彼女の今までの人生は得るものよりも失ったものの方が多い。そしてどれだけ嘆き悲しんだ所で、失われたものは二度と戻ってくることはない。
もう十分泣いた。苦しんだ。かつて楽しかった思い出も生きることの喜びも忘れるくらいに。
この先辛い人生しかないのなら、逃げても、捨てても構わないだろう。例え世界がそれを許さなくても関係ない。彼が、彼だけが許してくれるなら、それでいい。
もう彼しかいない。
彼しか、要らないのだ。
──嗚呼、そんな。
一人は慣れていたはずなのに。これからもずっと独りなのだから覚悟しなければと。かつて自分にそう言い聞かせてもきたのに。
今は彼の姿が見えないだけで、こんな。胸が、騒めく。
Aは片腕をぎゅっと掴んだ。
その時──。
「そんなとこでぼーっと突っ立ってたら、悪い蛇に連れ去られてまうで？」
耳元でくつくつ笑う低い声。
背後から、温もりと嗅ぎ慣れた匂いに包まれる。それだけで胸の騒めきが一気に静まっていく。
待ち望んでいた熱。背中から伝わってくるそれに、Aはゆっくりと目を閉じる。そして腹部を覆う両腕に手を添え、する、と優しく撫でた。
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抹茶ちよこ(プロフ) - nさん» こちらこそ最後まで読んで下さってありがとうございます✨nさんの心を動かす作品になれて、とても嬉しく思います！ (1月25日 20時) (
レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
n(プロフ) - 泣きました…本当に素晴らしい作品でした。ありがとうございました。 (1月22日 23時) (レス) @page9 id: 9f8fd53d26 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 雨宮さん» 雨宮さん、コメントありがとうございます✨おお…そんな方から楽しかったと感想を頂けるとは。大変嬉しいですね！こちらこそ、ありがとうございます！ (11月21日 22時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
雨宮 - 完結おめでとうございます、あまり知らないジャンルでしたが楽しんで読めました。ありがとうございます。突然のコメント失礼致しました。 (11月20日 21時) (レス) @page9 id: 7f56c29a31 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 詩歌さん» 詩歌さん、コメントありがとうございます✨私の作品は年齢制限ものが多いので全員とは言えないですが(苦笑 以前の作品も是非見て欲しいですね。今より文が拙いと思うので恥ずかしい気持ちはありますが(笑 大丈夫ですよ！全然気にしてませんから！ (11月9日 8時) (レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2023年11月4日 13時
