小話：水魚之交 ページ5
【前置き】
こちらはその後の二人の様子をちょっとだけ覗くお話になっております。
本来このお話は公開する予定ではございませんでした。何故なら、二人が何処へ行ったのかどう過ごしているのかは、読者の皆様のご想像にお任せしたいと思っていたからです。
ですが、今回こちらのシリーズの一作目が赤星になった記念と、コメントで意外にも気になってる方がいらっしゃったと言うのもありまして、公開することに致しました。
もし作者の思い描く二人の姿にほんの少しでもご興味がある方は、このままお進み下さいませ。
それでは長くなりましたが、どうぞご覧下さい。
木の葉のそよめきが聞こえる。
目の前に広がる闇。その奥から僅かに差し込む光に引っ張られるようにして、Aは瞼を開いた。薄暗い視界の中、世界の輪郭と色彩がぼんやりと見える。
明るい方向を視線で辿れば、開け放たれた障子が。その向こう側に、青々とした草木が白い光に照らされながら揺れていた。
朝か。Aは微睡む意識の中でそう思った。
寝ている間に布団から出していた腕がすっかり冷えてしまったようで、ふるりと身を震わせる。もそもそと布団を掛け直して体を縮こませる。
部屋の薄暗さからして、日が昇って浅いのだろう。起きるにはまだ早い。
頭の中に居座る睡魔が甘く囁き、手招きをしている。その手を掴もうとAは再び瞼を下ろす。
だが次の瞬間、はっと目を開ける。Aはそこでようやく、背中が冷たいことに気付いたのだ。
ぐっと体を捻り、後ろを振り返る。
あるはずの姿がなかった。其処にはただ、人一人分の空間が残されているだけで。
急に頭が冴えた。Aはゆっくりと体を起こすと周りを見回す。が、室内の隅々を確認しても彼を見つけることは叶わなかった。
「……ゾムさん？」
次に名前を呼んでみる。しかし寝起きで掠れた彼女の声は静寂の中に吸い込まれただけだった。
ゾムは確かに此処にいた。その証拠に、不自然に空いた其処を触れば微かに温もりが残っている。一体何処に。
Aは再び障子の方に振り向き、その隙間から覗く風景を静かに見つめる。
さわさわと梢が鳴く。
するとAはおもむろに立ち上がる。そして布団の外でくしゃくしゃになって横たわる寝巻きを拾い上げ、袖を軽く通すだけにして部屋を出た。
ぺた、ぺた。板張りの廊下をゆっくり進んでいく。時折痛む腰に小さく眉根を寄せながら。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
抹茶ちよこ(プロフ) - nさん» こちらこそ最後まで読んで下さってありがとうございます✨nさんの心を動かす作品になれて、とても嬉しく思います！ (1月25日 20時) (
レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
n(プロフ) - 泣きました…本当に素晴らしい作品でした。ありがとうございました。 (1月22日 23時) (レス) @page9 id: 9f8fd53d26 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 雨宮さん» 雨宮さん、コメントありがとうございます✨おお…そんな方から楽しかったと感想を頂けるとは。大変嬉しいですね！こちらこそ、ありがとうございます！ (11月21日 22時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
雨宮 - 完結おめでとうございます、あまり知らないジャンルでしたが楽しんで読めました。ありがとうございます。突然のコメント失礼致しました。 (11月20日 21時) (レス) @page9 id: 7f56c29a31 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - 詩歌さん» 詩歌さん、コメントありがとうございます✨私の作品は年齢制限ものが多いので全員とは言えないですが(苦笑 以前の作品も是非見て欲しいですね。今より文が拙いと思うので恥ずかしい気持ちはありますが(笑 大丈夫ですよ！全然気にしてませんから！ (11月9日 8時) (レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2023年11月4日 13時
