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○ゲーム終了後、息を荒げながらちらっと彼女に視線を向けると目が合ってしまった。視線が交差したことに気付いた彼女がまるでお疲れ様と言うように笑ったのを見て、ゾムは恥ずかしさで頬を赤らめた。
「おっしゃ! 来い、来い!」
「あっ、あっ……うわあ⁉︎ 落ちてもうたッ!」
クレーンゲームのフロアに下りてきた彼らは今やガラスケースの向こうにいる美少女に夢中になっている。取れそうで取れない、そんな瀬戸際を楽しむように次々と鉄箱の中に硬貨を落としていく。
それをニヤニヤと笑いながら見守っていたゾムはふと周りに彼女の姿が無いことに気付いた。何処へ行ったのか、軽く首を振ってみると自分達の居る場所から少し離れた所に彼女を見つける。
ガラスの向こうを一心に見つめる横顔に何かを悟った彼は静かにその場を離れた。
「それ欲しいんか?」
突然聞こえてきた声にAが顔を上げる。いつの間にか隣に居た彼の姿を見開いた瞳で捉えた後、躊躇いがちな声を口から漏らす。
「可愛えぬいぐるみやな」
「あ、うん。これ、好きで集めてるんだけど、取るの難しくてね……」
そう言って彼女は再びガラスケースの中で横たわる猫に視線を向ける。
以前他のゲーセンで見つけて、一目惚れしてしまった愛らしい猫のキャラクター。それからと言うもの彼女はその猫のグッズを買い集めたりSNSで情報を追うようになった。
たまにこうしてクレーンゲームで見かけた際は一応取得しようと頑張ってはみるが、あまり上手くないのでいつも散財するだけで終わってしまう。悔しい思いをして、後ろ髪を引かれながらその場を離れることが多かった。
最近また見かけるようになったこのぬいぐるみは取ろうと試みて、結局失敗に終わった一つだった。一度諦めたものだが、視界に入るとどうしても目で追ってしまう。その度に彼女は自分の諦めの悪さについ自嘲してしまうのだった。
挑戦してもどうせ結果は前と同じだ。やめよう、と改めて意志を固めたAは首を軽く振った。
「鬱島君たち、まだかかるかな?」
「あー……見てた感じ、取れそうやから多分まだやるんちゃうかな?」
「じゃあ私、ちょっとトイレ行ってくるね」
それにゾムが了承の声を返すと彼女は店の奥へと進んでいく。段々と小さくなっていく彼女の後ろ姿を見送った後、ゾムは再び目の前の猫を見下ろした。
○
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抹茶ちよこ(プロフ) - 瑞稀さん» コメントありがとうございます!面白いと言って頂けてとても嬉しいです!これからもどうぞ温かい目で見てやって下さい。ありがとうございます! (2022年4月17日 12時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - うわぁ〜〜!!本当に面白いです!!まさかのライバル?!誰なんだ…続きも楽しみにしてます! (2022年4月15日 0時) (レス) @page39 id: 503fd2a4ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:抹茶ちよこ | 作成日時:2022年3月14日 15時