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○そこには突き刺さるような敵意はなく、純粋に疑念を含んだ眼差しが向けられている。
初めてしっかりと彼の瞳が見えて何となく困惑しつつも、少女は表情を崩すことなく視線を落とした。言葉を選んでいるのか、そんな考える素振りを見せ、少し間を置いてから彼女の唇が動いた。
「お兄さんが、困ってたっぽかったし。…それに私、あの人達嫌いだから」
「…それが理由？」
まあ、と少女は頷く。
あまりにも単純明快な答えに、顔を見る限り裏は含んでいなさそうな様子。ようやく知れた理由がそんなもので、ゾムは呆気に取られてしまった。そして内心で本当に変な奴だな、と思った。
だがまあ、そう言うことなら一応自分は彼女に助けてもらったと言うことになる。彼女のお情けで、少しだが腹も膨れたことだし。いや、本来なら有り得ないことなんだが。
「まあええわ。アンタのおかげで助かったのは事実やし。一応礼は言うとくわ、ありがと」
ゾムは口元を綻ばせて、おにぎりも美味しかった、とそう最後に付け足した。
まさか感謝されるとは思っていなかったのか、少女はそんな彼の表情に微かに驚いた様子を見せた。そして彼から目を逸らし視線を手元に落とすと、僅かに表情が柔らかくなり口角を上がった。
それをゾムは見逃さなかった。
何だ、笑えるのか、と最後に意外な事実を知り、少し驚きながらもようやく重い腰を上げる。その瞬間、脇腹と左足に痛みが走る。
すっかり忘れていたそれに耐えつつも、しっかりと両足で立った。
「さて、そろそろ大丈夫そうやから行くわ」
両手でトレーを持った少女も立ち上がる。
その瞬間そよ風が通り過ぎ、彼女の髪を揺らした。
「…気を付けてね」
彼女の表情はまた元に戻っていたが、心なしかその瞳は寂しそうだった。柔らかいが冷たいその声に乗って掛けられた言葉に、ゾムは呆れたような笑いを浮かべた。
特に別れの言葉も言わずに、ベランダの柵に足を掛け、路地裏と家の敷地を仕切る塀の上にジャンプする。次いでそのまま軽やかに路地裏に着地した。
そして一応周りを警戒しながら歩き出し、帰るべき場所の方向へと足を進める。
路地裏の奥に彼の後ろ姿が消えるまで、少女はただただじっとそこから見つめていた。
○
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抹茶ちよこ(プロフ) - コメントありがとうございます！嬉しいです！では是非読ませて頂きますね(^-^) (2021年10月29日 3時) (
レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
アンテール(プロフ) - こんな作品があったなんて…。驚きです。この作品、大好きです！(*^^*)良かったら私も書いてるのでいかがですか？自分の作品紹介してすいません。 (2021年10月27日 9時) (レス) @page40 id: 798525d29d (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - はぁぶ。＠某戦争屋推しさん» コメントありがとうございます！まさかこちらの作品も見て下さったとは…！本当にありがとうございます(T-T)が、頑張ります…！ (2021年8月7日 4時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。＠某戦争屋推し - 二章が気になる……。短編集の方から来た人です！抹茶ちよこさんの表し方？が好きです。更新を心待ちにしてます！頑張って〜 (2021年8月5日 18時) (レス) id: 457f98608e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2021年5月21日 14時
