27：ただの気紛れでも ページ27
○は？——とゾムは眉間に皺を寄せた。
窓越しから見える部屋の中は必要最低限の家具が置かれているだけで、案外殺風景だった。初めてまじまじと眺めたのでそれに気付いたが、目的はそうではない。
本来ここにいるはずの人物が何故かいないのだ。外の光が差し込んでいるので中はよく見えて、どんなに隅々まで目を凝らしてもその影すら見つからない。
がらんとしたその風景は、まるで最初から誰も居なかったように佇んでいた。
ゾムは窓に手をかけ開けようと試みた。しかし、いつも開いていたそれは今日はしっかりと鍵がかけられていた。
中に入ることは叶わず、開けることを断念したゾムは考え込む。少女がここから居なくなる理由なんてあるのだろうか。
何かの理由があって突然ここから別の所に移されたとか。はたまた出稼ぎみたいな感じで、外に連れ出されてたまたま今居なかったとか。いや、後者は流石に考えにくいか。
となると、別の場所に移されたのが有力か。他に何かあるかと考えると、ある一つの考えが頭に浮かんでゾムは一瞬で血の気が引いた。
まさか——処分された、とか。
買われた娼婦の結末は如何なるものなのか。そんなこと知る由もないので推測でしかないが、捨てるか殺すかではないだろうか。もしそうなる場合の理由は年齢だとか、使えなくなったとか。あるいは逃げ出したり、あまりにも反抗的な態度を取るとかそこら辺だろうか。
だが、あの少女に至ってはどの理由も当てはまらない。ならば処分されることはないか。
いや待て。まさかとは思うが、自分と内通していることがバレた、とか。
だが彼女が自分のことを話すとは思えないし、以前彼女自身も敵に情報を売っていないと言っていた。もし話したとしても、逆に敵に情報を売っているかもしれないと怪しまれて、それこそ処分されかねないだろう。あの少女がわざわざそんな危ない橋を渡るとは到底思えない。
もしや何か苦痛を与えられて、拷問みたいなことをされて強引に吐かされたとか。その上で処分されてしまったとか、まさかそんなことは。
流石に考えすぎかとゾムは嘲笑する。
だが一度芽生えてしまった不安が消えることはなく、胸の内でぐるぐると回っていく。何故なら、可能性がゼロではないからだ。
もしかしたら今、最悪の事態になっているかもしれない。そう思うとゾムの中に焦りが生じ始める。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
抹茶ちよこ(プロフ) - コメントありがとうございます！嬉しいです！では是非読ませて頂きますね(^-^) (2021年10月29日 3時) (
レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
アンテール(プロフ) - こんな作品があったなんて…。驚きです。この作品、大好きです！(*^^*)良かったら私も書いてるのでいかがですか？自分の作品紹介してすいません。 (2021年10月27日 9時) (レス) @page40 id: 798525d29d (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - はぁぶ。＠某戦争屋推しさん» コメントありがとうございます！まさかこちらの作品も見て下さったとは…！本当にありがとうございます(T-T)が、頑張ります…！ (2021年8月7日 4時) (レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
はぁぶ。＠某戦争屋推し - 二章が気になる……。短編集の方から来た人です！抹茶ちよこさんの表し方？が好きです。更新を心待ちにしてます！頑張って〜 (2021年8月5日 18時) (レス) id: 457f98608e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2021年5月21日 14時
