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___何もなかった。
そう、何もなかったのだ。
刹那、Aの脳裏に自信に満ち溢れた腹黒王子の顔を思い出す。
ヒーローをしているときの彼の顔が。
____ってちがうちがう！
本当に……本当に何もなかったんだから。
AはLINEを開き、爆豪勝己と書かれたアイコンをタップする。爆発している画像が貼られたアイコンを見つめ、どうでも良い逃避をしているのに気がついた。
_____よし。
Aは1人部屋で小さく頷く。
友人はAの様子を見て、そっとしておいてくれていた。
クラスメイトも大概である。
今日のことは一度きりの偶然。
たまたまあの場所へ行って、たまたま事件に遭遇して、たまたま王子と連絡先を交換しただけ。
クラスも科も違う。連絡先も今頃消されているだろう。
今後話すことも、面と向かって話すこともない。
連絡先を交換しただけ。
人生そんなもんだ。
そんなもんのはずだった。
いつも通り、憂鬱な学校への道を歩く。
桜はすでに散っていて、緑の葉が青々と茂ってきていた。
めんどくさい。帰りたい。
昨日の今日でこう思ってしまうのは仕方ないだろ。
なんて言い訳をしながらAは歩き続けた。
そのとき____正面で空気が揺れ上がる。歓声のような女子たちの悲鳴が聞こえてくる。
遠目でもはっきりと分かる存在感。黙っていればイケメンランキング堂々の1位を獲得できるその少年。
爆豪勝己。
口を開けば王子は王子でも腹黒王子へと変わり果てる。
熱意を帯びた視線で見つめる女子生徒たちを完璧無視しながら歩いていくその姿はイケメンそのものだった。腰パンだけど。
すぐ近くを通り過ぎていく爆豪を女子たちはアイドルを見つめるかのようにメロメロだ。
____やっぱイケメンだなぁ
だなんて思っていても関わりたくない人間の1人。Aは完全にモブ目線で見ていたのだが、爆豪がこちらを見ている気がして仕方がない。
後ろを確認するも、誰もいない。
間違いなく凝視されていた。
___え、なんで？
そんなことを考えている内に、腰パンをしているから分からないが恐らく長い足をこちらへと運んでくる。
え、え、え………？
困惑している間に爆豪はAの前まで来ていた。
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作者名：おにぎり。
| 作成日時：2021年9月5日 12時
