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歩き出したは良いが、正直近寄りがたい。
黒いジャケットに白いTシャツ。
一切シミのない白いズボン。
どれもシワがなく、見た目だけでは腹黒王子ならぬ、白馬に乗った王子様だった。
通りかかる女性全員が一度は目を止まらせる。
大人から子供までが彼を見つめ、乙女顔になっていた。
Aが立ち尽くしていると、爆豪が顔をあげ、こちらに気がついた。
もたれかかっていた時計塔から離れ、こちらへと近づいてくる。
どきりと心臓が跳ねた。
『お…、はよう』
「行くぞ」
挨拶は完全に無視され、すっと歩き出す王子。
Aも後に続いた。
一つ一つ気にしていたらキリがない。
『あのっ…今日はどこへ？』
「着けばわかるわ」
___いやぁ、まぁ、そうなんだけどさ。
彼は教えてくれなかった。
なんでもない返事だが、Aにはとても新鮮なものに聞こえる。
道を折ると、そこにはたくさんの高級ブランドの服屋やジュエリーショップが並んでいる。
こんなところに入ったこともないAにとっては緊張でしかない。
ふと店の窓に自分の姿が写り、
___気合入れすぎてないか？
と心配になった。いつもと違う髪型、流行中の淡いエメラルドグリーンのロングスカート。
それに袖のあたりがひらひらしている白いトップス。
王子ほどではないが清潔感は一応あふれていた。
ふと、王子が左へ曲がる。
Aも慌てて続く。
目の前には大きな木が。
青々と茂った葉を見ると、初夏が近づいているなと確認できる。
その後ろにはドラマに出てくるかのような壮大な門。
___なんのお店？誰かのお屋敷？
Aにはその建物がなんなのか全く検討が付かなかった。
そこへ王子がいつもの調子で入っていく。
___え、ここ？着いたらわかるとは……？
そんな思いが頭の中によぎる。
「いらっしゃいませ」
黒いスーツを纏った紳士的な男性は営業スマイルを浮かべてそう言った。
__ここ、相当良い店だろ…
Aにはそう感じられて仕方がない。
「ご予約のお名前を伺ってもよろしいでしょうか？」
「爆豪」
王子と店員さんとの会話が進むにつれ、Aはテンパってくる。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
店員さんの後に王子が続く。
Aもそれに続く。
歩くにつれ、ここがどこか分かった。
____ここ、レストランだ。
初デートは高そうなランチだった。
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作者名：おにぎり。
| 作成日時：2021年9月5日 12時
