3 ページ3
.
今日は帰りが遅くなった。Aさんは明日実家に帰ると言っていた。もう、寝てるかもしれない。玄関を開けると、リビングの明かりがついている。起きてるの?
「Aさん?」
僕の声かけに返事はなくて、畳まれた洗濯とソファーに横になるAさんを見つけた。珍しい。
「こんなところで寝たら風邪…っ…」
初めて見た。
Aさんの涙を。
目頭から頰へと線を描くその涙の訳を僕は何も聞かされてなくて、軽くパニックだった。怖い夢を見ているのだろうか、それとも何かあったのだろうか…声をかけられずにいると、手に握れた携帯に誰かからのカトクが入り、バイブ音が唸った。Aさんは起きなくて、上に向けられた液晶にメッセージが浮かぶ。
" 母
明日病院に直接くる?
連絡ください。"
病院という文字に心当たりがなさすぎて、目を疑う。
"『お母さんがね、
たまには帰って来いって』"
実家に帰る本当の理由を僕は知らずにいるのに、いつもと何一つ変わらず優しく笑うAさん。目の前で1人、眠りながら泣くこの人に、僕は必要とされていないのかもしれない。
どうして…
.
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:rukai | 作成日時:2017年7月25日 22時