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「そうでもないで」
高校ん時は周りから性格が終わっているとも評されていたし
それは納得いかないが、人に優しく出来る方ではないことは自覚済みだ
必要性が見つけられないことに熱を注ぐのはどうにも苦手だった
「今までで一番、丁寧に扱われてるよ」
「⋯⋯そうか」
「一番最初に付き合った人がさ、別の彼女作ってて」
家から出て拠り所はそこしかなかったのに、出て行けと言われた時の絶望は今でも深く刻まれている
信じられなくなったよ、何もかも
それからはフラフラと人と人とを渡り歩いた
飄々と、傷つかず、深追いし過ぎないように
染み渡るような声は、暗闇の中をゆっくりと巡る
背中の温もりは、小さく震えながら吐き出した
「わたし、あんたみたいな人に恋がしたかった」
不安と哀しみと後悔とを押し潰したような声が、耳の中に木霊して離れない
「普通に笑って、泣いて、怒って、時々喧嘩して、でも仲直りできるような」
そんな当たり前が出来る女の子に、なりたかった
「すればええんやないの」
は、と短く息を吐き出す音が聞こえる
「まだ子供やん。笑って泣けるような恋や思い出なんて、いくらでも作れるで」
自分だってさして歳は変わらないくせに
「そうかな」
「信じれば、叶う。努力すれば、もっと叶うで」
「ふ、脳筋か」
「うっさいわ」
先程とは一転、柔らかな空気が辺りを満たす
「そう、⋯⋯そうだね」と自分に言い聞かせるように呟くと、ふと声が止んだ
隣から寝息が聞こえてくる
寝たんかな
⋯⋯あわよくば、その隣にいる男が自分であればいいのに
図々しい奴が、心の中に住み着き始めた
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作者名:まあ | 作成日時:2024年4月21日 16時