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綻びは感じられなかった
昨日まで、普段と何も変わらなかったはずなのに
⋯⋯本当に?
小さく浮かんだ疑問は膨れ上がる
本当に、いつも通りだったのか
きっとそうでは無いはずだ
俺が、気がつかなかっただけ
「⋯⋯最悪の誕生日プレゼントや」
恐らく誕生日など知らないだろうに、なんという偶然か
歯ブラシ、スリッパ、揃いの茶碗
Aの残した足跡は感じられるのに、その姿が無いことに余計胸が痛んだ
どうせなら全て綺麗に無くなってしまっていれば良かったのに
「そんなこと、思っとらん癖にな」
物を欲しがらない奴だった
無欲なだけだと思っていた
気に止めはしなかったが、それも自分の痕跡を無駄に残さないためだったのだろうか
俺はAのことを何も知らない
好きな物、嫌いな物、誕生日、家のこと
どうでもいいような小さなことも
聞こうとしなかった訳ではない
踏み込もうかと躊躇しているうちに、気がつけば離れてしまっていた
お前の中で俺は、そんなにどうでもいい存在だったんか
別れすら告げないでさよなら出来るような、ちっぽけな存在だったんか
ため息が暗闇に溶けた
俺の中で、Aの存在が大きくなり過ぎたのだ
わかっている
俺の中の特別な場所にAがいる
失ってから気がつくとか、ドラマの中だけやと思っとったのに
「⋯⋯は、あほくさ」
俺は、Aのことが好きなのだ
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作者名:まあ | 作成日時:2024年4月21日 16時