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翌週の土曜日
電車から降りると、普段は疲れ切って億劫な帰り道がそれほど憂鬱には感じられない
自覚がある程には機嫌が良い
原因はわかっている
手に持つ紙袋の中には、ふたつのマグカップ
ふと立ち寄った店先に並んでいた黒猫をあしらった物
なんとなく、見た瞬間にAのことが思い浮かんだのだ
そしてその隣にあった白猫
無意識にそれにも手を伸ばしていて、お揃いにしてしまった、と帰りの電車の中で気がついた
まあ、深い意味は無い
お揃いというのも意図した訳ではないし、そもそもAは気にもしないのではないか
言い訳めいた言葉を頭の中に並べても、お揃い、という単語が気分を高揚させる
まあ、自分への誕生日プレゼントということで落ち着かせておこう
家に戻ったら外食に誘うのも良いかもしれない
誕生日というのは建前で、彼女の笑顔を見ていたい、その気持ちが大半を占めている
「ただいまー」
妙に部屋の空気が冷えているような気がした
「A、帰ったで」
部屋の中は薄暗く、物音一つ聞こえない
「A？」
どこか買い物にでも出掛けたのだろうか
机の真ん中に、鈍く光るものが見えた
⋯⋯鍵だ
鍵を置いて出掛けるということは無いはずだから、何かがおかしい
そう言えば先程、鍵は締まっていただろうか
開いていたのではないか
思い出そうにも良くわからなかった
脇のメモ用紙に目が移る
書かれていたことは簡潔なのに、その内容を理解するのに時間を要した
それらが示すことはたった一つで、しかし到底受け入れることは出来なかった
『短い間でしたがありがとうございました。楽しかった時間をありがとう』
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作者名：まあ | 作成日時：2024年4月21日 16時
