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「近場にこんなに店があるなんて知らんかったな」
「そうだね」
「⋯⋯なんか他に寄りたいとことか無いんか」
「無いかな」
そこで口を噤むと、ぼんやりと遠くの方を眺める
めっきり口数が減ってしまった
もしかしなくても、さっきのことが原因だろう
小さな紙袋をそっと後ろに隠した
渡しにくくなってしまったではないか
立ち止まった俺を不思議そうに見るA
喉に一瞬張り付いた声を押し出した
今言わな、いつ言うねん
「なあ、これ」
「え⋯⋯ありがとう⋯⋯?」
なんで疑問形、と笑いが零れた
「開けていい?」
「むしろ開けて」
紙袋を覗いたAの顔が驚きに染まる
黒い髪留め
夜空を閉じ込めたようなそれは、見た瞬間にAのことを思い出させた
「ねえ、つけてよ」
近くにあるベンチに座り促すようにこちらを見上げる
柔らかな髪を掬いとると風がさらりと撫でた
どうにも上手く出来ない
「⋯⋯へたくそ」
「しゃーないやん、やったことないんやから」
「でもいい」
ありがとう、大切にするね
柔らかく微笑んだ
周りの花はもう散ろうとしているのに、そこだけに花が咲いたようだった
「⋯⋯今日、カレーが食べたい」
「おお、ええな」
「材料買ってこ」
もう一度そっと、控えめに手を繋いだ
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作者名:まあ | 作成日時:2024年4月21日 16時