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...
帰宅してすぐにソファーに倒れこんだ。
荷物片付けなきゃ...
洗濯物...
仕事の準備...
やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、スイッチ切れちゃったみたい。
あー、電話鳴ってるかも。
バッグから微かに聞こえる携帯の振動。
手探りで取り出し、トオルと表示された画面をただ見つめた。
出なきゃ。って思いつつなかなか動かない指先。
気付くと画面は真っ暗になっていてそのまま目を閉じた。
私、何やってんだろう。
なにもかも中途半端なんだよね。
大切なモノは昔から変わっていないのに、無理に塗り替えようとしたから...。
私が愛を注ぐべきモノだけは揺らいじゃいけなかった。
どこまでも落ちてしまいそうになる。
握ったままの携帯が小さく震えた。
家着いた?って直人さんからのメッセージ。
こうやって優しく気にかけてくれる人がいて、ありがとうって言える環境は決して当たり前なんかじゃないんだ。
すぐ下の未読メッセージを開くと、飯いつ行く?って一言。
たったそれだけなのになぜだか「大丈夫」そう言われてる気がして泣きそうになった。
広臣に合わせるよ。って返すとすぐに既読になってそれがまた嬉しくて、じわーって心が温かくなるの。
大きく深呼吸をして着信履歴の1番上をタップした。
「...もしもし、トオル?」
「...A、」
「電話くれてたよね?なんだった?」
「あー、うん、あのさ...、」
久しぶりに聞いた声は記憶にある声と違って違和感。
「荷物は全部送ったから家にはもうなんにもないと思うけど。」
「いや、うん、それは大丈夫。」
トオルが何を言いたいのかわかっちゃって話すのが辛くなる。
どうやっても選んであげられないんだ。
「あのさ、A...、」
「...ん。」
「もう1回会えない?ちゃんと話したい。」
「...会えないよ。」
「ほら、この前はさ、ちょっと感情的になっちゃったから...。」
「...ごめん、もう会えない。」
「ははっ、そっか。そうだよな。」
なんて言えばいいのかわかんなくて黙った私とトオルの乾いた笑い声が切なく響いた。
最後に、ごめんな。って言って切れた電話。
トオルはなんにも悪くないのにね。
私が弱くて甘ったれた人間だったの。
こんな時でも、変わらず月の光は優しく包み込んでくれました。
窓から見える大きな大きな月に向かって私はあと何回手を伸ばすんだろう。
...
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あお(プロフ) - meguさん» ご丁寧にありがとうございます。meguさんはとっても嬉しいお方ですね。そんな方に読んでいただけて嬉しいです。今後もよろしくお願いします。 (2021年2月6日 4時) (レス) id: e7291e172f (このIDを非表示/違反報告)
megu(プロフ) - 誤解をさせてしまったら申し訳ありません。更新のスピードは気にしていません。それよりお話の内容の方が大切ですから。久しぶりにドキドキする、大好きだなと思える小説に出会えました。本当にありがとうございます。あおさんのペースで書いてくださいね。 (2021年1月19日 18時) (レス) id: f00810db22 (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - meguさん» コメントありがとうございます。そんな風に言っていただけるなんて嬉しくて泣いちゃいそうです。更新の遅さは本当にごめんなさい...。頑張りますのでお付き合いいただけたら幸いです。 (2021年1月19日 17時) (レス) id: e7291e172f (このIDを非表示/違反報告)
megu(プロフ) - 更新が遅かったとしても、読んだらそんなこと忘れてしまうくらい切なくて苦しくて、でもきゅんとする素敵な作品をありがとうございます。最後まで大切に読ませていただきます。登坂さんをこんなに素敵に描いてくださること、とても嬉しいです… (2021年1月19日 2時) (レス) id: f00810db22 (このIDを非表示/違反報告)
あお(プロフ) - ユキさん» こちらこそありがとうございます。全然更新出来なくて本当に申し訳ないです。 (2020年10月26日 16時) (レス) id: 652c381dd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あお | 作成日時:2020年6月22日 12時