■純白と朱色に袖を通して* ページ1
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『久しぶりだねえ、Aちゃん。助かるよ。』
─ここは日本。
外国人観光客が日本に来たら必ず行きたいと言われているスポットの、京都。
中でも神社とお寺が長〜い山道で繋がっていて、その独特な参拝ルートが最近テレビでも話題になり、外国人をはじめとしたたくさんの観光客で押し寄せる中
わたしは純白と朱色の鮮やかな装束に袖をとおして、微笑んだ。
『とんでもないです。職を失って困っていたのはわたしですから。』
久しぶりのずっしりとした袖の重み。
もう着ることもないと思っていたから、嬉しい。
『すこしの間ですけど、またよろしくお願いします。』
27の夏の終わり。
社会的に不景気が続き、契約社員だったわたしは突然退職することとなった。
次の職も見つからずに数ヶ月が過ぎ困っていたところ、小さい頃からお世話になっていた実家近くの神社の宮司さんが声をかけてくれた。
大学時代にその神社の巫女アルバイト─いわゆる”助勤”を数年経験したことがあったわたし。
神社にとって繁忙期であるこの時期は、特に人手が必要だったとのこと。
そうは言っても心優しい宮司さんのことだから、おそらくわたしの突然の退職を知って手を差し伸べてくれたんだと思う。
季節は冬。
繁忙期の大晦日。
今日からほんの数日、巫女姿での助勤が始まる──。
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作成日時:2020年5月20日 19時