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「もう、やめてくださいよ」
西島さんに離された腕でポンっと胸をたたいた。
西「人の彼女奪っちゃダメでしょ」
はは、って笑いながら立ち上がって伸びをした。
「奪っても、
きっと悲しまないです。」
西「え？」
「いや、なんでもありません。」
西島さんの前を横切ってフロアへ向かう。
その後ろを西島さんが着いてくる。
「これ、新作なんですけど
私のお気に入りなんです。」
アクセサリーのフロアへ出て入ったばかりの
ネックレスをショーウィンドウから取り出す。
西「わぁー、きらきら。」
後ろから覗き込む西島さんとの距離は0センチ。
「…っ、」
微かな香水の香りが鼻を掠める。
西「うん、かわいい。」
私の手元からネックレスを取って
なぜか私の首元に当てる。
西「これにしよう、」
また即決だ。
レジに向かっていつも通りお会計をする。
少し前まで会話なんてしたこと無かったのに。
なんなら1ヶ月ぶりなのに。
人との距離感なんてこうやって縮まって
いとも簡単にすぐに離れていく。
真っ黒のクレジットカードを抜いた西島さんに
アクセサリーの入ったショップ袋を渡す。
いつも通り店先までお見送り。
ドアマンがドアを開けるともうお別れだ。
もっと、レジからドアまで遠ければいいのに。
「ありがとうございました」
西「はい、」
いまさっき渡したショップ袋を私に差し出す西島さん。
訳が分からず袋を見つめる。
西「すごく似合ってたからプレゼントです。」
私の右手に無理やり自分のショップ袋を持たせる。
「え！え、いや、まってください。」
意味を理解しても理解ができない展開。
西「待てないー、
ほら、周りに見つかっちゃうから！」
そう言ってキョロキョロしてイタズラに笑った。
車に向かっていく西島さんを追いかける。
「ほんとに、悪いです！こんなの。」
西「奪っても、悲しまないんでしょ？
きみのかれし。」
最後だけ強調したようにそう言う。
車のスライドドアを開けて、ニコッと笑って
手を振って車は走っていった。
こんなことされたら忘れられないよ。
そう思うのに、高鳴る胸の鼓動がいつまでも
収まらなかった。
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作者名：ma2894am | 作成日時：2021年12月22日 9時
