【高峯翠】174cmのお姫様【あんスタ】 (ページ3)

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002 ゾンビの行進ページ3

使い古してすり切れた台詞回しに、苛立ちを見せてはいけない。ト書きが決まってるものだから、私に求められる立ち回りもやっぱりベタベタなもの。
腹の底でぐるぐると渦巻く憎悪か、怒りか悲しみか。その醜い有り様から目を逸らして、ピエロが張り上げた声は素っ頓狂ですらあった。

「えー、木村さんってちっちゃくて細くてかわいいじゃん！羨ましいよー」

それを聞いた木村さんの顔に刹那、得意げな色が浮かぶ。私は見逃さない。
こうやって見下される瞬間が、どんなに屈辱的で、惨めで痛いか！
153cmしかない、"女の子"らしい木村さんに分かるわけがない。想像できるわけがない。

でもこれは掘り出さない。見てみぬふり。174cmの大女に期待された振舞いはそれじゃないから。

理想的な受け答えを得たクソ男子たちは調子づいたのか、さらに畳み掛けた。
「ほんとほんと！木村さん、Aの身長もらってやってよ。10cmくらい」
「バッカ、木村さんのかわいさが失われるだろ！」
「そうだよ、コイツバスケ部でも男子よりでけえんだぜ。男の敵〜」

10cm伸びたら失われる木村さんのかわいさ。なら、木村さんより20cmでかい私は何なんだろう？
答えは明白だ。考えたくもなくても。

とっくに閉じたはずの傷口がまた開いて、じくじくと血を流し始める。

大丈夫。大丈夫。大丈夫だよ。いつものことだし慣れてる。だから大丈夫なうちにどうか、幕引きを。
自分に言い聞かせて、両の手を組んで祈った。誰にでもなく。
少し早いし、木村さんや男子はまだ物足りないかもしれない。
だけどそろそろ去り際だ。間違って泣いたりする前に撤退だ。

「うるせー！あ、悪りーけどそろそろ部活だから、私行くわ。じゃあな」

声色は明るく、笑顔を浮かべて、だけど誰の顔もけして見ない。なじってしまいそうだったから。

そうやって教室から逃げ出した。

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コンプレックスだった身長を、少しでも前向きに見つめたくて選んだバスケだった。
でも忘れられるのはインプレー中だけ。一歩でもコートの外に出たら猫背の私に逆戻りだ。

逃げたいけど、キャプテンの私はそうもいかない。ふらふらと渡り廊下をゾンビのように漂って、ぼうっとコートへ歩を進めていた。

「危ない！」

耳に心地よい中低音の叫びと、穏やかな体温が私をぎゅっと後ろから抱き締めて。
その人と一緒にその場に座り込みながら、ばくばくと高鳴って口から飛び出た心臓を、私は取り落としそうになった。