きっかけはシェアハウス２ (ページ11)

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英雄ポロネーズ

あいつの口から出たフレーズに、懐かしさが甦った。

小学校に上がる前から習っていたピアノ。

そのコンクールで俺も弾いたことがあった、思い出の一曲だ。

「あの男の子、プロのピアニストになったのかなぁ。たしか佐藤くんだったかな？」

その名を聞いて、心が騒つく。

「佐藤……」

それは俺と同じ苗字だった。

親が離婚して母親の姓の北山になったけれど、それまではずっと俺は佐藤だったから。

まさか今目の前にいるのは、あの時の小さな女の子なのか？

コイツも親が離婚しているから、あの頃と苗字が違う。

俺が覚えているのは、倉橋Aではなく、小鳥遊Aだ。

綺麗な苗字だなって思ったから印象に残っている。

その子はちっこいのに指使いが繊細で、驚くほどピアノが上手くて、俺は舞台袖からその音色を聴いていた。

コンクールでは毎年俺が最優秀賞を受賞して、その子はいつも優秀賞だった。

表彰では瞳に涙をいっぱい溜めて、隣に並ぶ俺のことを悔しそうに睨んできて。

本気でピアノと向き合っているからこそ本気で悔しがるその子は、きっとプロになれると感じたりもした。

それなのに……。

舞台を降りて帰り際にバイバイと手を振ると、頬を赤く染めて恥ずかしそうに小さく手を振り返してくるから、可愛らしい子だなと思った。

あの時の女の子が本当にこいつだなんて信じられない。

それに────

こいつの初恋は、俺なのか・・・？

「ねえ、ミツの初恋は？」

今でこそ４つ年下の子を幼いなんて思わないし、付き合うことに違和感もないけれど、当時の俺には４つ下の子なんて幼すぎて可愛い子どもとしか思っていなかった。

だけど、俺もその４つも下の子が奏でるピアノの音に惚れたんだ。

綺麗なその音色をずっと聴いていたいと思った。

それをこいつの言う恋と呼ぶのなら、そうなのかもしれない。

「俺の初恋……は、泣き虫な子かな。」

「泣き虫？あっ、ミツがいじめて泣かせてたんでしょー。」

「いじめてねえわ。まあ、でも……結果的に俺が泣かせてたのかもな。」

だって俺が最優秀賞じゃなかったら、あの子は泣かずに笑っていられたんだから。