しっかり者の宿命 ページ3
やかましく鳴る目覚まし時計を手探りに探し当てる手間も惜しんで、手当たり次第に叩いて音を止める。
もしや壊れたから止まったのでは?という恐れを抱きながらそれを手に取って見てみると、ちゃんと生きていた。毎度のことながらほっと胸を撫で下ろす。
ありがとう、目覚まし時計くん。毎日暴力振るってるというのに私を遅刻させないでくれて。
わさわさと髪の毛をかき分けて、目をこする。こつんこつん、という控えめな音にそちらを見てみると、見慣れた青髪が自分の家の窓を叩きながらこちらを見ていた。
またか、とため息をつきながら窓を開けると、こつんこつん、がゴツンゴツン、という音に変わって耳に届いた。窓をふたつ挟んでいるから控えめに聞こえていただけで、全然控えめじゃなかった。呆れていると、相手は開口一番にこう言う。
「宿題見せて」
「なんの?」
「あれだよあれ。えーと、なんだっけ」
建設的な会話は見込めない幼なじみには背を向けて、くしを探し当てる。あった。見つけた。
一応ころんのほうに顔は向けながら癖っ毛の髪をがしがし梳かしていると、やがて彼が「あ」と声を上げた。
「思い出したわ、保健たい」
彼が言い終わる前に反射的に窓を閉めると、私は完全に彼から背を向けた。
***
下の階に降りると、お母さんがお弁当の準備をしていた。私を見て、「おはよう」とにこやかに言う。私も挨拶を返して、今日のお弁当のおかずを吟味した。
きんぴらごほう、卵焼き、鶏のさっぱり煮。お母さんは料理が上手い。
リビングにある全身鏡の前で制服のネクタイを締めていると、お母さんが私に聞いた。
「今日部活あるの?」
「うん、あるよ」
活動日カレンダーを頭の中で思い浮かべながら答える。私の入っている陸上部は月、水、土が活動日となっていて、大会前などを除けば例外は基本的にない。
部活に思いを馳せると、ああ、またあいつと会うのか、と気分が落ち込んだ。保健体育の宿題見せてってなんだ、普通に嫌がらせじゃん。そんなことを心の中でぶつぶつ呟き、キッチンに入って食パンをトースターにセットした。
あと数分で、やつが玄関のインターホンを押す。おばさんに「Aちゃんはしっかり者だから安心だわぁ〜」と言われてしまってから、私は毎日こうしてころんの子守をしてやってるのだ。褒められると期待に応えなければ、と意気込んでしまうのは『しっかり者』の悲しい性である。
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作者名:紬 | 作成日時:2020年8月3日 13時